2020年10月19日

第2545夜:重と丼の距離【浜松(静岡)】

 重箱。おせち料理や仕出し料理で活躍する高級感みなぎる日本の伝統食器である。

 神戸から新幹線ひかり号で藤枝に向かう途中(注:2011年のことです)、浜松で在来線に乗り換えねばならない。その際、私に1時間ほど時間の余裕が生まれた。時間は午前11時を過ぎた頃。少し早目の昼食を腹に入れることにした。12時には在来線に乗らねば目的地に間に合わない。

 浜松を代表するB級グルメといえば今や「浜松餃子」。土産なら「うなぎパイ」。これらB級ご当地グルメを凌駕する浜松超A級グルメは、うなぎである。

 浜松は「日本のかおり百選」とうものにも選ばれているそうだ。日常生活の昼食で(自腹で)鰻屋の暖簾を潜るのはかなりの蛮勇を要するが、異邦人である私には普段の感覚がマヒしている。

 観光案内所に最も近く、11時にすでに開いている<丸浜>の暖簾を潜った。風格とカジュアルさを兼ね備え浜名湖養魚漁港直営店らしい。すでに店内は観光客と思しきお客が席に着いている。

 私は定番の「うなぎ重」(肝吸い・漬物付)を注文した。確か2400円程度だったように思う。他にも白焼など心躍るメニューが心に飛び込んでくるが、午後から藤枝で会合を控えており、アルコールは当たり前だが厳禁。

 鰻屋でビールや酒をヤレない辛さは筆舌に尽くしがたい。うな重を肴にぬる燗をチビチビやるのは、間違いのない人生の至福の一つである。

 心乱れながらメニューを再読すると、「うなぎ丼」があった。2000円程度。酒が呑めないなら、丼でワシワシかきこむ方が昼ランチには相応しい。ただ、高いメニューを安い方に変更したい旨を申し上げるのは、自腹で鰻屋の暖簾を潜る以上に胆力が必要である。

 アヅマ「あのぉ…、先ほどのうな重、丼に変えてもらうことはまだできますか…?」

 店員さん「はい!大丈夫ですよ!(厨房に向かい)先程のうな重、丼に変更お願いしま〜す」

 鰻のヌメリのような粘着質の恥ずかしい汗が私の額を流れた。10分ほど待っただろうか。漆塗り風の容器に包まれ、うなぎ丼が運ばれてきた。

 フタを開けた。大きい。そして蒲焼特有の殺人的魔力を秘めた世界最強の香りがプワ〜ンと飛び込んできた。涎を堪え、目をつむる。私の口の端はニヤリと吊りあがっている。

 まずは尻尾のところを箸で千切る。柔らかい。蒲焼のみを口に運んだ。……。上品な脂のコク、タレの甘辛、焼き目の香ばしさ。ウギョーと叫ぶそうな歓喜が口の中で溢れた。

 山椒をパラリと振りかけ、ワシワシと口に頬張っていく。タレがホカホカご飯に絡む。口直しの漬物がサッパリ感を増長する。肝吸いの上品さに思わず目をつむる。私は、天国を見た。

 違いは研究不足でよく分からないが、一般的に丼モノは重モノよりに安いように思う。うなぎ丼の方が値段的にはお得だが、酒で一杯となると風情の軍配はうなぎ重に上がりそうだ。

 うなぎ丼は昼。うなぎ重は夜。重と丼の間に横たわる距離は浜名湖の対岸より離れているが、浜松うなぎはその距離を一気に縮める魅力と魔力を秘めている。

浜松うなぎ.JPG

(付記)
これも2011年に書いたと思しき死蔵ストックから。全く覚えていない。来週の月曜(10月26日)、約10年ぶりに浜松へ。ただし中心部から離れていると思しき温泉街へ。前日に栃木県(小山市)からいったん神戸の自宅の夜に戻り荷物を詰め替えて当日は朝から家を出て浜松へ。翌日は福島県(会津若松市)へ。鰻や餃子を喰らう時間があれば幸せでありんすが…。、
posted by machi at 06:47| Comment(0) | 静岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする