ある寒い朝。<ホテルカスカベ>をチェックアウトし春日部駅へ。電車まで15分ほどある。
春日部駅周辺は駅構内も含め立ち蕎麦屋が見当たらない。ファストフードは林立しているものの、さっと立ったまま蕎麦を手繰りたい二日酔いの朝もある。鯨飲した勢いで出汁の効いた汁が啜りたい夜もある。ヒットしたのは冒頭の東武ラーメンのみ。
私は3・4番ホームから発つのだが、いったんスーツケースを苦闘しながら7・8番ホームへ。券売機の前に立つ。
……。思わず目を剥いた。完全なラーメン店だった。立ち蕎麦屋がついでにラーメンも提供しているのとは気合が違う。そば、うどんなし。ラーメン一本勝負である。思わず笑みが漏れる。好敵手を目の前に打ち震える気分といおうか。
メニューが豊富である。定番の「ラーメン」が500円。醤油と塩が選べる。これをベースに大盛、ネギ、玉子、メンマ、チャーシュー、野菜、ワンタンと組み合わせれば無限のバリエーションが広がる。宇宙が広がる。コロッケや天ぷらまであるあたりに蕎麦の名残も感じさせる。
つけ麺(あつ・冷や)、冷やし中華、冷やしザルラーメンまであった。冷やし系は「売切」ランプ点灯中なので夏期限定なのだろう。
ここはド定番の「ラーメン(醤油)」。ボックスには私(45歳)より30歳以上御年輩と思しき手慣れた雰囲気の熟女3名が切り盛り。わくわくしながら待つ。ラーメンはそばより幾分ゆで時間が長いものである。
ブツを受け取る。胡椒をパラリし、まずはスープ。……。ユネスコが絶滅危惧種指定を検討している昔懐かしい鶏ガラ醤油。味は平たんではなく重層。濃い目だがスッキリ。これは朝昼夜いつどんなコンディションで啜っても最高クラスに旨い万人向けである。
麺も黄色い縮れ細麺。フニャフニャではなくコシがある。チャーシューも大きく柔らかい。メンマ、ナルト、海苔、ネギが完璧な五芒星を描く。究極の様式美である。
麺1本、汁1滴残さず啜り切った。大満足を遥かに超える、ホームの快楽と至福。これはありとあらゆる無限のバージョンを試さねば心残りと悔いに溺れる。おそらく、春日部市民のソウルフードのひとつかもしれない。
次回はコロッケか、天ぷらか。ベースは塩にしようか。朝早くから夜遅くまで開いているのも頼もしい。駅そばも嬉しいけれど、駅ラーメンは嬉しさが確変していくようである。

Yネスコは世界遺産に登録すべき。

そば、うどんのない鮮烈さ。

王道にして完成形。
(付記)
ちょうど1週間前(2020年6月12日)、大宮駅京浜東北線ホームの立ち蕎麦屋さんでチャーシューメン大盛にコロッケ&かき揚げをトッピング。……。どちらの良さも壮絶に殺し合い。今回の最後の2行、懲りたので実践しないと思います。