2019年10月31日

第2306夜:衣から覗く淡黄の肌【千葉(千葉)】

 生ゆば。いかにも京都的な和の高級感漂うおぼろげで儚い豆腐料理の一種(たぶん)である。湯葉という漢字も風流で、鍋にさっと泳がすと湯の中でにヒラヒラ舞う木の葉を連想させる。

 様々な料理法があるのだろうが、私はさっと湯がいてポン酢に浸したものしか経験がなかった。ゆばの旨さ、風流が少し理解できるようになったのは30歳を超えてから。それまでは全く心が動かされることもなかった。大抵のオトナ(特にオトコ)が同じようなものだろう。

 千葉市の中心地である京成電鉄千葉中央駅前で、一日一麺を達成すべく午前10時ごろ、ホタホタ散策を試みたが、ラーメン店はまだ開店していない。立ち食い蕎麦の店も発見できず、あきらめかけた時だった。私の目に、「手打ち」「24時間」「蕎麦」などの文字が飛び込んできた。

 某全国カレーチェーン2階のガラス戸に、これらのキーワードが踊っている。店名は<岩井のお蕎麦>。心強い限りだ。早速2階に駆け上がった。

 店内はカウンターとテーブル席で構成。完全に居酒屋風の造りだ。店内の巨大TVはワイドショーを流している。朝でも昼でもない中途半端な午前10時。客は私一人だけだ。

 券売機系の立喰い蕎麦なら迷わず天ぷらそばを注文するが、試しにメニューを見る。各種麺類だけでなく、居酒屋メニューもかなり充実している。目移りする中で、豆腐系専用ページがあった。その中の「生ゆば天ぷらそば」に心を鷲掴みされた。

 メニューを再度じっくり見る。これが朝10時ではなく、午後から仕事もなければ、完全に朝から蕎麦屋で一杯モードに突入していただろう。24時間営業の手打ち蕎麦は、日本初だそうである。チェーン店でないのに、本当にすごい。店主の岩井さん、いつ寝ておられるのだろうか。

 徹底的な味のこだわりは、メニューに記載された迫力満点のワードに満たされている。名店で修行した店主、無農薬の蕎麦畑栽培、蕎麦粉づくり、源水手打ち、3種の節を使ったダシ、秘伝調合の返し、化学調味料は一切使用せず……。

 鋼のようなスキのなさだが、手打ちでコシが強いため、柔らかめも希望に応じていただけるそうだ。強さのなかに優しさを感じる。

 至高のブツが運ばれてきた。私のゆば概念を覆すような巨大天ぷらが3ヶ。茄子天ぷらとワカメ、刻みネギが彩りを添えている。スープは真っ黒ではなく、私の好む関西風の透明感だ。

 レンゲでダシを啜る。……。五臓六腑に沁み渡る。思わず目を閉じ、幸せの吐息が漏れる。麺を啜る。……。手打ちならではの歯ごたえとコシの平打ち麺。蕎麦粉の香りも高い。

 生ゆば天ぷらを齧る。……。熱々の汁が口の中に飛びだした。あっさり味のゆばが油を吸いこみ、出汁という湯に浸かり、フワフワのトロトロに。衣が少しはだけ、淡黄の肌を覗かせる。衣の油が出汁に沁み出し、コクが倍増する。モロモロ、ズルズル、ジュルジュル…。混然一体。

 天ぷら系蕎麦は、衣がツユに溶けグズグズになった後半のカオスが、最も官能的で魅力的。年増悪女の深情けのような熟した色気のある味になる。

191031千葉そば.JPG
posted by machi at 14:22| Comment(0) | 千葉県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月30日

第2305夜:1ポンドの腹音、第5ラウンド【千葉(千葉)】

 <鉄板牧場>。ありそうでなさそうな力強い店名の(おそらく)チェーン展開しているステーキハウスである。

 京成電鉄千葉中央駅の隣接する高架下風の一画は、飲食チェーン店が軒を連ねる。その中で私にとってひたすら眩しく輝いていたのが<鉄板牧場>。巨大ポスターに「メガステーキ」が思いっきりクローズアップされていたからだ。

 メガステーキは1ポンド。つまり450gである。1ポンドステーキの捕獲をライフワークに加えている私に見逃すことはできない。それほど空腹でもなかったのだが、店内へ進軍。券売機でメガステーキのボタンを押す。1980円。1ポンド系としては安値といえる。

 水を呑みながら、ぼんやりと店内を見渡す。ステーキ以外にもチキン、ハンバーグもあり、なサイズも様々。スーツ姿のサラリーマン中心だが、女性の一人客、それも年配のお姐さんの占有率も高めだ。

 皆さん、頻繁に入口付近に足を運び、ライスとスープをお代わりしている。このお店、ライスとスープが食べ放題という。しかもライスは契約農家直送のあきたこまちを唄っている。

 私は1ポンドと対峙する時、ライスもサラダも無視してひたすら肉のみを攻めるのだが、あきたこまちは最も好む銘柄。心が乱れる。

 思いっきりジュージュー音を立てながら、鉄板に載せられたブツが運ばれてきた。鉄板の周りをグルリと紙で巻いて覆い、ハネが飛ばないよう気配られている。希望者には紙エプロンも配られる。

 店内は誰も付けていないが、私は何の照れもなく装着。特にカレーうどん系では必須アイテムだ。常に持ち歩きたいほどである。

 紙を外す。分厚く大きなレアステーキが2枚。鉄板の余熱で徐々にウェルダンされる。卓上の調味料を様々駆使するのも楽しみが増す。

 まずは岩塩と胡椒で。口に運ぶ。……。アメリカ産ビーフのワイルドでサッパリした旨みが広がる。霜降りでは味わえない豪快さだ。

 ソースは3種類。オリジナル、ステーキ、玉ねぎである。それぞれを少しづつ掛けて味の違いを楽しむ。どれも見事な実力。

 卓上に醤油もあったので、バターが乗っかった部分の醤油を数滴垂らす。口に運ぶ。これぞ日本人のステーキである。

 ステーキをおかずに、炊きたてあきたこまちを頬張る。ノドを押し広げながら流れ込む感触がたまらない。

 焼野菜とポテトはほとんど残してしまったが、あきたこまちをお代わり。タレの沁みたステーキとの相性は恐るべし。あっという間に450gが胃に収まった。

 1ポンドの腹音シリーズ、これで第5ラウンドに突入。全12ラウンドに向け、ようやく中盤に差し掛かってきた。

(付記)
今年の台風や豪雨で千葉のヤラレっぷりが悲惨すぎて、応援の意味もこめて死蔵ストックから千葉ネタ発掘。しかし恐らく7年以上前と思われるので読み返しても記憶皆無。タイトルも内容も「第5ラウンド」とか書いているが、間の2〜4ラウンド記憶も紛失。画像が残っていただけでも奇跡。とはいえ、しばらく死蔵ストックからネタ発掘になるが千葉応援である。

191030千葉ステーキ.JPG
1ポンド(450g)。
posted by machi at 07:02| Comment(0) | 千葉県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月28日

第2304夜:麺街道をゆく・延長戦【博多(福岡)】(後編)

 時間が5分前になった。スープが少しも冷めず、とても呑み切る時間がない。断腸の想いで麺を啜り終え、席を発つ。

 発車ギリギリで乗車。ムワっと蒸し暑い。車内の温度が高いのか、それとも味噌ラーメンで体温が上昇しているから。どちらにしても、鳥栖駅を超えるまで汗が引くことはなかった。5月上旬なのだけど。

 それから1か月半後。那覇空港から福岡空港を経由して北九州小倉へ向かっていた。その日の福岡は凄まじい悪天候で、引き返すかとこかの空港に行ってしまうかの条件付きフライト。機内は満席。沖縄は快晴だ。

 ほぼ定刻で出発し、ほぼ定刻に福岡空港着陸。安堵していると、今度は着陸してから飛行機が動かない。雷雨のため地上整備員が避難し、待機支持が出ているという。全く動く気配も見込みもわからない。結局90分機内に足止めを喰らう。

 割と余裕のあるスケジュールを組んでいたから助かったが、それでも15時の北九州小倉ミッションまで余裕がなくなった。在来線は凄まじい遅れだが、新幹線は動いている。博多から小倉まで15分ほど。ラーメンを啜る時間ぐらいは確保できそうだ。

 バスターミナル地下<牧のうどん>に惹かれるが、少しでも新幹線乗り場に近い方が気分的に落ち着く。「博多麺街道」へ足を向ける。未啜の店で、しかも行列ができていない店。

 ……。発見。名前は伏す。時間は14時頃。両隣は行列だが、この店は台風の目のようにある意味穏やかでまったりした雰囲気だ。

 券売機でチャーシューメンのボタンを押す。1000円弱。替玉が150円。替玉150円は少々割高な気分だし、チャーシューメン1000円弱もギリギリのライン。替玉は店内で現金でも可能らしく、チャーシューメンで様子を見て、替玉現金払いの作戦を立てた。

 程なくしてブツ搭乗。博多豚骨は麺が細く湯で時間が短いので、急いでいる時は重宝する。

 胡椒をパラリし、まずはスープ……。うん?日本酒のぬる燗なみの温度。チャーシューを沈めるとさらに温度が下がり、人肌程度になった。

 時間がないので冷ます必要もなく、確かに啜りやすい。しかし、何故か首を傾げたくなるのは何故だろう。フーフーしなくても思いっきり啜ることができる。味はまろやかめで無難といえるが、フーフーしながら熱々を啜る醍醐味は1gも感じることはできない。

 替玉する気分が滅失し、後半は紅生姜をぶち込んで啜り上げる。もしかすると、急いでいるように見えたかもしれない私の様子を見て、店側が冷ますという配慮をして下さったのかもしれない。

(付記)
後半のお店、あまりにも印象に残らなかったのか全くどの店が覚えていない。よって画像が分からない。よって今回は画像無しで失礼します。
posted by machi at 17:13| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月27日

第2303夜:麺街道をゆく・延長戦【博多(福岡)】(前編)

 ある肌寒い雨のGWの平日。新幹線博多駅に降り立ち長崎へ。乗換時間20分。その日は朝から何も腹に入れておらずかなりの空腹。駅弁か、駅ホームの立喰いうどんか……。

 20分という時間が微妙である。これが15分以内なら迷わず上記2択。駅弁は出来れば酒の友としたい。その日の気分はうどんというよりラーメン。時間は13時半を回っている。

 駅改札出てすぐに10店舗以上がひしめく「博多めん街道」が広がる。トンコツの強みは、その調理の時短。行列のない店なら間に合うかもしれぬ。

 ラーメンスイッチが入った。歩幅を10p広げ、街道へ向かう。一部並んでいる店もあるがそれほどでもない。昼過ぎとはいえ、GWの平日だからか。

 この街道は入れ替わりが激しく、一時期全店制覇しようと気合を入れていたが、入れ替わるため永遠に完頂できない。奥まで進んでしまうと、活きのいい若いお兄さんと眼があった。「すぐ今なら入れますよ!」。

 <博多川端どさんこ>。あの全国ラーメンチェーンでも系列でもないが、福岡市内で50年以上続く人気店だ。

 中洲川端商店街を通った際、他の豚骨店は空いていたがこの店だけ超満員で溢れていた。気になっていたが、福岡に来て味噌系を啜ろうと思わず、スルーしていた。そもそも中洲川端まで行くのが面倒だったのが、まさか博多駅構内でお手合わせ願えるとは。

 迷っている時間もない。福岡県内は頻繁に通っているので、豚骨はいつでも啜れる。博多で味噌、いいじゃないか。

 一番シンプルな「みそラーメン」(650円)を押してカウンターへ。この立地で650円はコスパ良しである。

 店内を見渡す。味噌ラーメン系が圧倒的なシェア。隣のサラリーマンの半チャンセットも旨そうだ。斜め前に座るオヤジのちゃんぽんっぽいメニューも気になる。

 5分ほどで着丼。特急発車まで10分。ホームまでの移動時間を考慮すると、5分以内で啜らねばならぬ。大蒜を入れたかったがミッションを控えているため我慢し、一味をパラリ。

 まずはスープ。……熱い!味噌ラーメンスープは醤油、トンコツ、塩などと比較し最も熱い(アヅマ調べ)であることを失念していた。慌てて水で冷やし、冷静に2口目。……。なかなかのコクである。ほんのりとバター風味も感じる。

 札幌味噌系ほどのパンチはないが、かなり重層的。毎日でも飽きないレベル高しな常食系かもしれない。

 麺もほどよく縮れてスープと絡む。チャーシューも柔らかくさっぱりが2枚も。メンマがかなり塩きつめだが、スープとも合う。総合点はかなり高い。

 私は札幌以外ではあまり味噌系を攻めないのだが、思わず首肯させられた。〔次夜後編〕

191027麺街道リベンジ:博多川端どさんこ.jpg
博多最強の味噌ラーメン(たぶん)。
posted by machi at 17:41| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月26日

第2302夜:麺街道をゆく・3日目【博多(福岡)】

 まずは美少女から。……。つるつる気持ちいいノドごしである。鶏風味濃厚な温かい出汁との相性もよい。番長を啜る。……。啜るというより噛み切るという雰囲気。噛みきった瞬間、そばの豊潤な香りのようなものが口に充満する。さすが番長、かなりの破壊力である。

 美少女と番長を交互に啜る。食べ終えた後、出汁をそば湯で伸ばす。椀を口に近づける。……。腐りきった五臓六腑に沁み込む。シメはそば湯だけをシンプルに満喫して店を出る。その時、この店の巨大タペストリーが視界に飛び込んできた。入るときは気づかなかった。

 そこに、驚愕の真実が記載されている。「博多はそばの発祥地」。……。私にとって和そばといえば出石(兵庫)、出雲(島根)、わんこ(盛岡)。まさか筑前博多がそば発祥の地とは……。

■大明担担麺:2015年1月30日

 四川牛肉麺は山椒強烈で深く旨い。麺も平打ちでボリュームたっぷり絶妙。メニューはかなり豊富。
 
 愛知岡崎幕府のM井将軍と博多駅での偶然邂逅に驚いて、ビールで乾杯(上様は水)。唯一無二っぽい味だが中毒性極めて高し。この店は以前ブログで紹介したので簡潔に。

191026 150130大明担担麺@博多.jpg
上様との謁見。

191026 150130四川牛肉麺@大明担担麺@博多.jpg
これ、好きです。

■ShinShin:2016年1月19日

 博多麺街道の中でも常に行列が途絶えない店である。並んでいる方々雰囲気が明らかに地元民中心っぽい。行列苦手ゆえにいつもスルーしていたが、麺街道制覇には避けて通れぬ。

 福岡なのに吹雪に見舞われた極寒の15時前。この店に2人しか並んでいない。しかもその二人はすぐ店内へ。私は惹き寄せられるように店頭へ。カウンターが1席空いていた。

 15時までのランチメニューが豊富。ラーメン650円(ランチ価格)召喚。出てきたブツは美を浮かべている。豚骨ラーメンの麺は細いが、一際細く感じられる。

 まずはスープ。……。行列も納得。思わず首肯する。麺との絡み具合も申し分なし。あっという間にスープまで呑み干しそうになるのを堪え、替玉(固め)召喚。卓上には紅生姜が設置されているが、自家製の特製ラー油の存在感が際立っている。

 替玉投下後、普段なら紅生姜だがラー油をたっぷりぶち込んでみる。……。一気に紅に染まる。夕日のようである。スープを啜る。……。山椒のパンチが凄まじい。ラー油の好みは分かれるかもしれぬが、私はクセになった。

 ラー油たっぷりスープも呑み干す。汗がにじみ出る。外は吹雪いているが、体の芯から発熱している。

191026 160119ShinShin@福岡博多.jpg
私には程よい濃さと浸透圧

●そして……。

 麺街道、いろいろ啜った。微妙に詳細は異なるものの、目隠しして啜ったとしたらどの店のどの麺か当てる自信は皆無。

 10店舗制覇したと達成感に浸っていると、知らぬ間に新店と入れ替わっている。このテの施設は入れ替わりがあることを忘れていた。麺街道、終わりなきシルクロードである。

(付記)
死蔵ストックから引っ張り出した全3回の「麺街道をゆく」。あまりにも前のことすぎてほとんど記憶なし。明日から麺街道リベンジ編。本編ご紹介の<ShinShin>が2019年3月に毎週のように通っている北九州市の小倉駅構内(駅から三十歩横丁)に出店。こちらは並ばずに啜れるので重宝。
posted by machi at 17:20| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする