様々な料理法があるのだろうが、私はさっと湯がいてポン酢に浸したものしか経験がなかった。ゆばの旨さ、風流が少し理解できるようになったのは30歳を超えてから。それまでは全く心が動かされることもなかった。大抵のオトナ(特にオトコ)が同じようなものだろう。
千葉市の中心地である京成電鉄千葉中央駅前で、一日一麺を達成すべく午前10時ごろ、ホタホタ散策を試みたが、ラーメン店はまだ開店していない。立ち食い蕎麦の店も発見できず、あきらめかけた時だった。私の目に、「手打ち」「24時間」「蕎麦」などの文字が飛び込んできた。
某全国カレーチェーン2階のガラス戸に、これらのキーワードが踊っている。店名は<岩井のお蕎麦>。心強い限りだ。早速2階に駆け上がった。
店内はカウンターとテーブル席で構成。完全に居酒屋風の造りだ。店内の巨大TVはワイドショーを流している。朝でも昼でもない中途半端な午前10時。客は私一人だけだ。
券売機系の立喰い蕎麦なら迷わず天ぷらそばを注文するが、試しにメニューを見る。各種麺類だけでなく、居酒屋メニューもかなり充実している。目移りする中で、豆腐系専用ページがあった。その中の「生ゆば天ぷらそば」に心を鷲掴みされた。
メニューを再度じっくり見る。これが朝10時ではなく、午後から仕事もなければ、完全に朝から蕎麦屋で一杯モードに突入していただろう。24時間営業の手打ち蕎麦は、日本初だそうである。チェーン店でないのに、本当にすごい。店主の岩井さん、いつ寝ておられるのだろうか。
徹底的な味のこだわりは、メニューに記載された迫力満点のワードに満たされている。名店で修行した店主、無農薬の蕎麦畑栽培、蕎麦粉づくり、源水手打ち、3種の節を使ったダシ、秘伝調合の返し、化学調味料は一切使用せず……。
鋼のようなスキのなさだが、手打ちでコシが強いため、柔らかめも希望に応じていただけるそうだ。強さのなかに優しさを感じる。
至高のブツが運ばれてきた。私のゆば概念を覆すような巨大天ぷらが3ヶ。茄子天ぷらとワカメ、刻みネギが彩りを添えている。スープは真っ黒ではなく、私の好む関西風の透明感だ。
レンゲでダシを啜る。……。五臓六腑に沁み渡る。思わず目を閉じ、幸せの吐息が漏れる。麺を啜る。……。手打ちならではの歯ごたえとコシの平打ち麺。蕎麦粉の香りも高い。
生ゆば天ぷらを齧る。……。熱々の汁が口の中に飛びだした。あっさり味のゆばが油を吸いこみ、出汁という湯に浸かり、フワフワのトロトロに。衣が少しはだけ、淡黄の肌を覗かせる。衣の油が出汁に沁み出し、コクが倍増する。モロモロ、ズルズル、ジュルジュル…。混然一体。
天ぷら系蕎麦は、衣がツユに溶けグズグズになった後半のカオスが、最も官能的で魅力的。年増悪女の深情けのような熟した色気のある味になる。