私にとって駅弁は‘酒のサカナ’である。しかし、1日に数本電車を乗換えて目的地まで数時間かかり、しかも乗換時間が数分しかない場合は、駅そばという選択肢が消える。駅弁一択だ。
その場合は乗換時間がほぼないため迷っている暇はない。即断即決と駅弁売場を一瞬で見つけ出す嗅覚が求められる。
ある初冬の木曜日。10時18分新神戸発新幹線で岡山。特急2本乗り換えて中村へ。高知四万十は初上陸である。
『おかやま豚スタミナ重』は岡山駅新幹線改札内で高知行き特急乗換10分の合間に捕獲した駅弁。調整元は三好野本店様。岡山駅弁の雄である。
特急に乗り込み、列車が動き出した。しずしずとパッケージを外す。豚バラ肉と角煮、玉子焼で構成されている。豚バラ肉は「岡山県産桃太郎ポークのスタミナ焼」。どのあたりが‘スタミナ’というと、「にんにく醤油ダレ使用」あたりである。角煮も岡山県産豚肉であるそうだ。
スタミナ焼、見た目以上にニンニクのパンチが効いている。角煮も濃厚。玉子焼が良い箸休めとなっている。それ以上に甘酢生姜の酸味が全体を引き締めている。彩もピンクゆえ映えている。
列車は高知着。到着ホームの向かいに停まっている中村行き特急に乗り換えるのだが、時間は4分。ふとホームを見渡すと、駅弁売場があった。せっかく高知まで来て滞在時間4分。少しだけ覗く時間はあるだろう。
売場へ行く。売り子熟女の猛プッシュが始まった。かつおたたき駅弁、アンパンパン弁当など……。なぜかまだ時間は14時にもなっていないのだが、思いっきり3割以上ディスカウントしている。まるで閉店時間の雰囲気だ。
この日は四万十市内のホテルで21時までミッション。その後は未定。レストランも閉まっているだろうから、ド放置プレイを喰らい部屋で孤独も考えられる。高知名物を全く口にする機会がない可能性高し。
かつおたたき弁当に惹かれたが、掛け紙に包まれて中身が全く分からない「龍馬弁」に惹かれた。高知といえば、龍馬ぜよ。1050円が、600円である。龍馬を指名し、列車に乗り込む。その瞬間動き出した。
指定席だがガラガラである。高知より先は私も初めて。未踏の地である。ある意味で冒険心を掻き立てられる。初めて訪れる街へ着く前は、胸躍る何かがある。〔字夜後編〕

岡山駅弁『おかやま豚スタミナ重』