ある秋の土曜の夜。21時過ぎに近鉄八尾駅前ホテルにチェックイン。新幹線で移動中に焼鳥、唐揚、焼きそばをツマミに酒を呑み、満腹である。しかし、外に出らずにいられない。
<えん>へ。2人テーブルだけ開いていたので座らせてもらう。相変わらずよく流行っている。バイトちゃん3人もキビキビで、接客も実に好もしい。
お通し3品をつまみながら熱燗をヤる。店内はすべて同伴カップル。土曜日なのに元気いっぱいである。自家製オイルサーディンも召還。バケットはそのまま食べても旨しな仕事ぶり。
カウンターに席を移し、忙しそうにしているマスタ―と談笑しながら熱燗のピッチを上げる。〆の`デザート´は生ビールである。
完全に満腹に。心も胃も満たされた。明日も早い。早めに寝よう。ホタホタとホテルに戻り入ろうとしたら、ひと煌々と灯る明かりがふと視界に入った。なんだろう。……。屋台ラーメンだ。
何度かこの前を通ったことはあった。しかし、金・土限定。時間も21時から26時まで。幻っぷりが凄まじく、タイミングが合うことなどなかった。満腹中枢が一瞬で破壊され、フラフラと蛾のように灯りに引き寄せられた。
女性店主がキリっとしてカッコいい。この店、というか屋台、マヨイガ風だが不思議な屹立感がある。椅子に座る。ふわふわとした浮遊感に包まれる。
メニューは3種類。ラーメン600円、ラーメン具たくさん700円、ラーメン大盛800円。照明があるわけでもなく、しっかりと周囲は暗い。具たくさんを召還する。
ぼんやり夢心地で呆けていると、幻の屋台ラーメンが運ばれてきた。固めのゆで卵、モヤシ、チャーシュー。具沢山の名に恥じぬ。
まずはスープ。……。うむ。思わず首肯する。これである。これぞ夜泣き屋台ラーメン。今や絶滅危惧種と思しき丼のフチのチャルメラ模様も昭和の王道。あっさり醤油の鶏ガラスープも今や希少。味も風情もマボロシだ。
ゆで卵に関し、私は半熟より固ゆで派(ハードボイルド)ゆえ、わかっていらっしゃる。スープに浸して口いっぱいに頬張る。麺1本、スープ1滴残さず夢中で啜りこんだ。
2018年度、八尾駅前に宿泊するのは3度目である。過去2回、翌朝ミッションが台風で中止になり、ただ泊りがけで呑んでいただけになってしまった。
11月の夜の屋外だが、寒さを感じない。雨が降る気配もない。地震も起きそうにない。マボロシのラーメンを啜りながら、3度目の正直を確信した。

<えん>にて。

幻との邂逅。

昭和の香り横溢。