私はほんの数年前まで年間100本以上「映画館」に通っていたシネマディクト(映画狂)だったが、最近は映画館から足が遠のき、年間3、4本という体たらく。
映画館に通わなくなると、予告編を観ることがなくなり、情報が先細り、ますます足が遠のく悪循環に。冒頭のホラー映画など、内容どころかタイトルすら存じ上げかった。2018年6月下旬の真夜中までは。
埼玉第二の中核市・川口市の活性化を牽引する川口市商店街連合会の皆さまと勉強会終了後、恒例の銀座商店街<ミルウォーキーズクラブ>へ。日中暑くて汗ドボドボ。冷えた生ビールが水のごとく毛細血管まで吸収され行きわたる。
熱々のピザやウィンナー、たらこスパゲティ、こだわりのオイルサーディン、プレミアムウィスキーのピッチを加速させるレバーペースト……。商連の旦那衆方と談笑しながら極上の夜が流れる。9月13日にには<そ●う>屋上を借り切ってビアガーデンを開催するという。
23時過ぎのお開きに。私は埼玉の2つの定宿の一つが聳え立つ西川口へ。北朝霞が第一の定宿になりそうな勢いだったので久々の感がある。
駅前は遅くまで飲食店が開いているが、最もデンジャラスなのが、西口駅前にて深夜2時まで煌々と闇夜を照らし続ける横浜家系ラーメン店。ホテルは駅から徒歩2分程度で、その途中は風俗店がびっしり。横浜家系ラーメン店からホテルまではこの前を通らずにはたどり着けない。風俗店の呼び込みたちよりも圧倒的の横浜家系の吸引力と呼び込み力が凌駕している。
その夜は満腹だった。生ビールをチェイサーにウィスキーをストレートで2時間ガバガバやっていたのでほろ酔っている。
深夜の横浜家系は確実にウエイト増加と翌朝の激しい胃もたれを約束する。私も44歳である。コンビニも寄らず、何も啜らずホテルに向かおう。
横浜家系の前をスルーしようとした瞬間、漆黒の店頭ポスターが視界に飛び込んできた。冒頭の「ウィンチェスターハウス」のポスターである。なぜこんな店頭に飾っているのか。
立ち止まって目を凝らしてしまう。……。「恐旨すぎて、死ぬ」というキャッチが意味不明だが迫力を奏でている。
ウィンチェスターハウスはアメリカで最も呪われた屋敷らしく、なぜかその屋敷と横浜家系ラーメン<壱K家>がコラボ。上映ならぬ上喰期間は6月20日から7月22日まで。タイトルは「ウィンチェスターラーメン ビルド〜味が増築する〜」。1日数量限定という。
ポスターの左下に不穏なビジュアルのラーメン写真があるが、全然目立たない。ラーメンよりお化け屋敷の方が目立つラーメン宣伝ポスターは初めてだ。世界観は完全に意味不明だが、元シネマディクト、現横浜家系ディクトとしてスルー出来ぬ。
券売機に立つ。1日数量限定だが、余裕で購入できた。店内はそこそこ混んでいるが、このヤバそうなブツを啜っている輩は見かけない。
ぼんやり待っていると、アメリカで最も呪われた屋敷とコラボで誕生したラーメンが現れた。麺が紅色と黒色でより合わさっている。かなり不気味だ。それと、焼豚、ほうれん草の横になんだかわからぬグロテスクな物体が浮いている。
まずは混ぜずにスープを啜る。……。安定した味である。休日の昼間の一般家庭を訪れたごとき平和な味わいである。麺を手繰る。……。麺の味はとくに飛んでいないが、口に運ぶことを思い留まらせる何かを秘めている。
謎の黒い塊をほぐしてみた。……。黄金色のスープに赤潮が発生した。いきなり不穏な空気が襲ってくる。スープはピリ辛に。ポスターのキャッチにあった「味が増築する」の意味が少し理解できた。
3分の1ほど食べ終えると、ビジュアルが酸鼻を極めてきた。麺がミミズのごとき地中生物に思えてきた。……。箸とレンゲが止まった。まさにホラーな映像が眼前に広がっている。
恐るべし、ウィンチェスターハウス。旨さよりも怖さで死にそうに。このコラボラーメンを啜り、逆に映画への興味が失せてしまった。

不穏なビジュアル。

阿鼻叫喚。

怖旨すぎて、死ぬ(らしい)。