2018年05月24日

第1953夜:とんかつ雨慕情【蕨(埼玉)】

 とんかつ。高級感と庶民性を兼ね備えたスーパースターである。私はかつ丼が大好物なのでとんかつ単品を頼む機会はあまりないのだが、たまにソースをたっぷり垂らしたとんかつで白飯をワシワシ頬張りたい欲求が押さえられない昼がある。

 あるどしゃ降りの3月上旬の氷雨な午後。蕨駅西口に降り立ち、ぶぎん通りへ。蕨屈指のとんかつ名店<嵯峨乃>さんへ足を運ぶ。この店、蕨の御仁たちから抜群に旨いとお聞きしていた。伝え聞くところによると、前店主が諸事情で廃業を余儀なくされる寸前、事業承継が実現してそのまんま復活したという。詳細は分らぬが、メデタイことである。

 13時前のどしゃ降りだったからか、ピーク時は外したようで店内は私一人。店先は老舗の風活と清潔な白暖簾が眩しい。店内は清潔感溢れ、独特の静寂が包んでいる。TVの音がさりげなく、居住まいを正してしまう。

 カウンターに腰掛ける。おしぼりが温かい。ランチタイムサービスがお得極まりない。とんかつ定食900円(税込)。普通なら1300円らしい。海鮮フライ定食(1780円)は1080円。700円以上もお得だ。他の定食も魅力的だが、初めての店はド定番に限る。とんかつ定食を頼み、1時間後にミッション開始なので当たり前だがビールは我慢し、ライスは大盛に。

 外から聞こえてくる雨の音をBGMにボンヤリしていると、ブツが運ばれてきた。思わず生唾をゴクリとする香ばしさと色気あるビジュアルだ。

 まずは味噌汁。出汁が効いて極上。思わずホワ〜と笑みが漏れる。かつはソースを多めに垂らし、練ガラシもたっぷりと脇に添え、噛り付く。……。サクサクのフワフワである。ジューシーで肉汁溢れる。脂の甘さも舌に溶けて上品。すかさず白飯で追いかける。

 口の中で肉の頼もしさ、脂の甘さ、油のコク、ソースの濃厚、衣の触感が混然一体。辛子のピリリも絶妙。味噌汁で洗い流すと目尻が下がる。キャベツも新鮮で瑞々しい。ポテサラも漬物も単なる添え物でなく、これだけでも一品勝負できる実力を兼ね備えている。

 大満足で味わい、再訪を誓いながらお会計。ライス大盛はサービスだった。感激が二乗に。素晴らしい接客に心暖まりながら豪雨の外へ。先ほどより暖かく感じる。

 ミッション開始まで30分ある。駅前のオシボリ付きで煙草も吸えるアメリカン180円、普通が200円珈琲の喫茶店へ。

 小学校低学年からグルメ漫画を読みふけっていた私にとって想い出深い作品がある。金字塔『美味●んぼ』の傑作が多かった初期。巻数も正式タイトルも失念したが、こんな話だ。

 とんかつ店を営む老舗老夫婦が廃業を余儀なくされた。その店に若い頃通っていて成功した紳士が、その味が忘れられなくなり老夫婦を探す。そして、とんかつを再現してもらう。

 これ以上はネタバレになるので控えるが、登場人物の会話がこの神回で交わされた。

「人間、毎日とんかつ定食を食べられるだけの収入があれば一番幸せ」。

 正確な引用を失念したが、大意はこのようなものである。この言葉が心に響き、それから30年以上、特段意識せずとも結果的に一つの目標にしてきた感がある。

 私は今、43歳である(2018年3月現在)。紆余曲折を繰り返し、絶頂までいかぬがそれに近い状況と掛け値なしのどん底を繰り返しながらなんとか生息している。蕨の老舗名店のとんかつ定食を毎日味わえる程度に恵まれた生活を送っている。ただし、サービスランチタイム以外は無理だけど。

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西口のぶぎん通りにある名店。

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最高。

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食後の一服。

posted by machi at 17:12| Comment(0) | 埼玉県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする