2010年から日本中を飛び回る仕事になり、特に九州(沖縄含む)は三陸(主に宮古)と同じ程度足を運んできた。少なくとも自宅のある神戸よりは九州滞在時間の方が圧倒的に長い。福岡(北九州・飯塚)を軸に沖縄(那覇・名護)、最近では長崎と熊本、たまに大分。鹿児島は未踏の地である。しかし九州の主要駅、特に九州新幹線沿いは鹿児島系駅弁が最も幅を利かせている。
ある日の午後。久留米から博多で乗り換えて関西方面へ向かう途中、博多駅で10分強の待ち時間があった。特に腹は減っていない。あまり時間もない。駅弁売場はスルーし、のぞみ号が発車するホームへ移動する。時間は昼過ぎ。車内で溜まりに溜まった報告書に挑まねばならず、酒精を摂取することは許されない。手を出せば切腹モノだ。
ホームに売店(セブ●イレブン)があった。ホットコーヒーを買おう。小さな店内に飛び込むや否や、私の視界に明らかにコンビニ弁当とはビジュアルを異にする風格あふれる駅弁が飛び込んできた。「島津家別邸仙巌園監修薩摩御膳」。字画の多さが圧倒的である。
ひらがなは一文字もない。漢文にしか思えぬが、即座に文字を分解する。鹿児島の超大名・島津家様に仙巌園なる別邸だか別荘だが保養所だか料亭だかがあり、島津家のお殿様にご馳走を作り続けてきた末裔らしき料理人が監修した「薩摩御膳」という弁当であると読み取った。
値段は1000円以下。平均的な駅弁価格より安い。掛け紙がなく、透明フタから内容が透けて見える。おかずの充実ぶりが凄まじい。豪華絢爛とはこの駅弁のためにある四文字熟語。手に取った時にズシリ感も頼もしい。わずか1000円で薩摩の神髄を味わえるかもしれない。
レジへ直行。この駅弁はおかずの多さから完全に酒のツマミ系である。しかし、PC猿打せねばならぬ。自宅に持ち帰り、晩酌の友としてご活躍いただくことに。
捕獲から数時間後。薩摩のお殿様もご賞味されたかもしれぬご馳走が眼前で華を咲かせている。1000円以下で殿様気分を味わえる。
お品書きは以下である。鰤の照焼き、鶏の柚子胡椒焼き、肉団子たれ和え、煮物、大場巻き海老天、牛肉野菜巻き、さつま揚げ、うずら卵、かまぼこ、厚焼き玉子、黒豆、大学芋、小松菜お浸し、漬物……。
さつま揚げと大学芋、柚子胡椒あたりに薩摩隼人を感じさせる。これほど酒が進む駅弁は全国でも稀有。味は上品だがしっかりと濃い。一分の隙もない。
製造業者(調整元)は博多の食品会社。島津家別邸はあくまでも監修。これほど風格とコスパを兼ね備えた駅弁だが、博多駅構内の駅弁専門売場で何故か見かけない。あくまでも駅ホームの<セブ●イレブン>限定なのかもしれない。島津家より恐ろしいセ●ンイレブン家である。

惹きの強いビジュアル。

豪華絢爛。