2017年02月27日

第1648夜:フケ男爵との攻防【久留米(福岡)】(後編)

 とろろと麺を絡めて啜ってみた。食感は予想通りだが、初めての味わいだ。蕎麦ととろろは『銀座の恋の物語♪』のような正統派の相性だが、ラーメンとの相性は『別れても好きな人♪』といった独特の関係のように思える。

 とろろとラーメンだけでも珍しいが、それが豚骨スープと合わさる。さっぱりとした中に、濃いパンチがある。試したことはないが、醤油系より豚骨系の方が合うのかもしれない。不思議な感覚だが、箸が止まらない。スープも一滴残さず干してしまった。

 最後はレンゲを使わずに、手で直接鉢を持ち上げ、直接口から啜った。口のまわりも手も、ラードかスープでベトベト。体の細胞の一つ一つに、豚骨の髄のエキスが染みこんでいきそうだ。贅沢で、手間暇のかかるラーメンだろう。

 深夜24時。メイン通りと思われる明治通りの広い歩道には、ラーメン屋台が所々に立ち並び、独特の獣臭を放っている。苦手な人にはツラいかもしれないが、すっかりこの臭いにハマった私は、胃がキュルリと音を立てた。どの店を選ぼうか。いかにも久留米ラーメン、という店を選びたい。

 久留米最大の繁華街・文化街エリア。商店街の路地に行列ができている。店の前を通りかかった。店名は<久留米屋>。いかにも久留米ラーメンっぽさが全開だ。明らかに地元民で賑わっていることも、私のアンテナに反応する。運よくお客が一気に出たので、待たずに私も潜り込んだ。

 メニューはシンプル。店内はお母さんとその息子、といった雰囲気の2人が切り盛りしている。ラーメンを注文したが、目の前のおでん鍋もグツグツと旨そうだ。

 おでん(玉子・天ぷら)を肴に瓶ビールを呑んでいると、久留米屋ラーメン600円が運ばれてきた。チャーシュー2枚、きくらげ、海苔、ネギ、そして茹で卵。具だくさんである。

 スープを啜る。思った以上にあっさりしている。呑んだ後のシメには、濃厚ギトギトよりもあっさり系が好評なのだろう。翌朝も安心だ。店内の常連客も一心不乱に啜っている。

 外は雨が降っている。店内は心地よく温かい。旨いラーメンを啜り、ビールを呑む。本来は至福の時間である。ただ、私の真横に座っている、肩にフケがとんでもないほど溜まっている豚骨紳士が、真横にいる私に向かって、肩のフケを頻繁に払うのだ。

 私はラーメン鉢と体をクネクネ避けながら防戦するのだが、テキは久留米ラーメンの濃厚さのごとく手ごわい。武器を持たない私は、完敗である。しかも、フケ男爵は汁をすべて啜った後、そのままカウンターで余韻を楽しんでいる。動く気配が微塵も感じられない。

 フケ男爵、恐るべし。おかげであまり味に集中できなかった。私は、まだまだ修行が足りない。

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おそらく行列のできる人気店。

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せっかくの絶品に集中できず。

(付記)
6年以上前に書いたと思しき死蔵ストック5夜目久留米編最終回。読み返しても味は覚えていないが、フケ男爵のことは鮮明に記憶。
posted by machi at 08:11| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月26日

第1647夜:フケ男爵との攻防【久留米(福岡)】(前編)

 久留米ラーメン。豚骨ラーメン発祥の地とされる福岡県久留米市の豚骨ラーメンである。

 博多ラーメン、長浜ラーメンと比較し、臭いが強烈なことで知られる。豚骨の骨を砕き、その髄まで煮込むからとされている。誕生の由来は、うっかり煮込みすぎていつの間にかスープが白濁してしまったからであるそうだ。麺は一般の豚骨ラーメンと比較すると、やや太めらしい。替玉を実施していない店もある。

 久留米市中心部・六ツ門商店街のある久留米市民憩いの場・六角堂広場。その1階にある<大栄ラーメン>は昭和48年創業の老舗。マップ紹介によれば「伝統的な麺上げ技術とスープづくりを続ける真面目な久留米とんこつラーメン専門店」だそうだ。「真面目な」というキャッチフレーズが、いろいろな想像をかきたてる。他の店はどうなのだろうか。

 店内は野生の王国的獣臭を想像していたが、それほどでもない。とてつもなく食欲をかきたてる匂いだ。臭いになれると、あっという間に芳醇な香りに変わる。

 昼時を大きく回ったにも関わらず、店内は肉体労働者、学生、サラリーマンで埋め尽くされている。みなさん、ワシワシと豪快にメシを口に放り込み、麺を激しく啜っている。まさにエネルギーチャージといった雰囲気で壮観だ。

 OLが髪を上げながら旨そうに啜っているのも、いかにも豚骨ラーメン元祖の街といえる光景。歩くのも覚束ない、総入れ歯と思われる老婦人が「ヒャァメン、ひゃわめ(アヅマ推測訳:ラーメン、柔らかめ)」と注文し、そのままカウンターに腰を落ち着けているのも、かなりの年季が入っている。

 定食やサイドメニューを黙殺し、私は定番のラーメン480円を注文した。待っている間、ヒマつぶしにメニューを熟読していると、「山かけラーメン」が絶対的名物であるそうだ。580円。こちらに切り替えてみた。
チャーシュー麺や高菜ラーメンは味の想像も容易だが、とろろをトッピングしたラーメンは極めて珍しく感じられた。

 ラーメン鉢が運ばれてきた。ネギとたっぷりのチャーシューを脇に追いやり、とろろが中央で円を描いている。

 レンゲでスープを少しいじる。ラードの量がものすごい。まずはスープのみをひと啜り。……。ものすごく熱い。ラードがスープのフタの役割を果たしているため、なかなか冷めない。

 ポタージュスープのような濃厚さの中に、ダシそのものの旨みを前面に押し出している。素材の味がはっきりしているようだ。深みと迫力、骨の髄までエキスが染みこんでいる。麺とスープの絡み具合も良い。あまり細すぎる麺より、若干太めの方がスープに合うのだろう。〔次夜後編〕

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入らずに居られない外観。

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山かけラーメン。

(付記)
死蔵ストック蔵出し篇第4夜。6年以上前に啜ったこのラーメン、何となく記憶あります。
posted by machi at 07:58| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月25日

第1646夜:久留米やきとりの謎を解く【久留米(福岡)】(後編)

 生ビールを注文した。煌めく黄金色の甘露をゴキュゴキュやる。焼鳥には生ビール。改めて黄金コンビの実力を思い知らされた。

 焼上がるまで、店内のPOPに目を通す。1979年創業のこの店は、「巻物串」発祥の名店として地元に大人気だそうだ。備え付けのパンフレットには、はっきりと「久留米焼とりの真髄を味わってほしい」と書かれている。

 まずはタレ焼の2串が運ばれてきた。牛サガリとつくねである。どちらも大きく、ボリューム満点だ。かぶりつき、クイっと串を抜く、生ビールで追いかける。人生の幸せである。

 続いて、塩焼が4本。ベーコンではなく豚バラで巻いたしそ巻、アスパラ巻、エノキ巻だ。野菜の香りと歯ごたえを十分に活かしながら、豚バラのコク味が絶妙の塩加減で絡みついている。とんでもなく旨い。

 焼鳥串のクライマックスといえば、手羽先である。いきなり手羽先を食べるのではなく、串物を制覇しつつ、シメの1本として真に相応しい別格の風格を醸し出している。

 熱々をかぶり付いた。皮がプチンとはじけ、手羽先の脂が染みだしてくる。口の周りも指先も脂でネチャネチャ。一々オシボリで拭くのも面倒で、食べ終わるまで脂まみれで夢中になること。これが手羽先を堪能する秘訣である。

 最後の1本はネギ巻である。ネギ身ではなく、豚バラで輪切のネギを巻いたネギ巻なのだ。これはタレが掛かっている。ネギの芳香と鮮烈が活かされたままで、嬉しい逸品だ。

 他のメニューを見ると、1軒目の店と変わらないほど数多くの串焼がある。ただ、どこが久留米やきとりなのか、ますます分からない。

 2軒で共通していたことは、「ダルム(小腸)」があること。お通しが酢ダレキャベツだったこと。そして、巻物系を含めて数多くの串焼があることだ。鶏だけでなく豚や牛はもちろん、馬、野菜、魚、練物まであるようだ。

 これが久留米焼き鳥の定義っぽいものなのだろうか。カウンターに座っている特権として、私に対峙する店員さんに、久留米焼き鳥の特徴を聞いてみた。店員さんは一瞬体が強張り、「エッ、久留米やきとり?何ですか、それ?」と信じられないことを口にした。

 今度は私がフリーズする番だ。思いっきり久留米やきとりと、パンフにもノボリにも書かれているではないか。

「エェ?聞いたことなかとです…。お〜い、久留米やきとりって、どういうもんたい?」

 問われたベテラン店員まで首をかしげ、厨房は「そういえば、久留米やきとりって何なんだ」という話がザワザワと広まり始めた。どうやら謎を解くことはできそうになかった。

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これも久留米やきとりらしい。

(付記)
6年以上前の久留米死蔵ストック第3夜目(全5夜)。読み返しても全く思い出せず。9日後に久留米へ行くので、謎を解くことができればステキ。
posted by machi at 18:52| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月23日

第1645夜:久留米やきとりの謎を解く【久留米(福岡)】(中編)

 私は迷った。串焼だけで40種類ほどある。ただし、鳥ばかりではなく豚、野菜、ベーコン巻あたりは何となく分かるが、にらまんじゅう、えび、ししゃももある。これはもはや、焼鳥とは呼べないのではなかろうか。

 私が注文したのは、鳥系では「皮(塩)」「ズリ」「ハツ」、豚系では「味噌ホルモン」「ウィンナー(一応豚とした)」「ダルム」、変わり串として「チーズベーコン巻」の計7本だ。

 この中で異彩を放つのが「ダルム」である。そもそも何か分からない。聞いてみると、豚(牛・馬の場合もあり)の小腸だそうである。

 どれも確かに旨かった。ダルムは何とも言えないクセと、絶妙の塩加減がタマラナイ逸品。これはハマりそうだ。焼酎も黒から赤、金とそれぞれの霧島を堪能する。

 しかし、久留米焼き鳥の調査としては失格である。さっぱり分からないのだ。店主に確認したくとも、かなり忙しいみたいで厨房に掛かりきりだ。

 久留米焼き鳥を知るには、1軒だけでは心もとない。最低2軒はハシゴしないと真髄は掴めないであろうことは予測できた。ご当地グルメ攻略の基本である。ゆえに、他にも旨そうな一品料理が目白押しだったのだが、断腸の思いで堪えた。腹を膨らませないため、生ビールをあえて排除した。

 もう1軒は、ガイドブックの中で6店舗中4店舗を占める「●砲」グループ。本店がホテルからほど近いところにある。

 店の前にはノボリがたなびいている。ノボリには「九州B-1グランプリ 久留米焼きとり ゴールドグランプリ賞受賞」と書かれている。期待が一気に高まる。

 店内は大いに賑わっている。営業時間が朝6時までということも頼もしい。カウンターに陣取り、今度は赤でも黒でも金でもない、シンプルな「霧島」の湯割を注文した。

 こちらもお通しは、酢ダレキャベツだ。おススメボードを見る。生レバーを注文し、おススメとされている鉄砲コース7本を注文した。7本の内訳は「牛さがり」「エノキ巻」「つくね」「アスパラ巻」「しそ巻」「手羽先」「ねぎ巻」である。

 生レバーが運ばれてきた(注:2010年11月時点)。見るからに鮮度が良さそうだ。生レバーはゴマ油に塩を投入したタレで味わうのが一般的かもしれないが、こちらは小鉢にたっぷりと入った生レバーに、卵の黄身が載せられている。九州独特の甘め醤油を掛け回すのだ。

 一切れ箸で取り、口に運んだ。……。極上の甘味が舌の上で踊る。臭みゼロで、ミルキーさがとろけそうだ。黄身と絡めると、コクとまろやかさが増す。あっという間に焼酎湯割を呑みほしてしまう。〔次夜後編〕

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この画像も覚えておりません。

(付記)
死蔵ストックお蔵出し第2夜目。読み返しても何も思い出せぬ。当時の空気感として御笑覧願います。
posted by machi at 12:50| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月21日

第1644夜:久留米やきとりの謎を解く【久留米(福岡)】(前編)

 B級グルメの聖地。とんこつラーメン発祥の地として知られ、近年は焼き鳥日本一の街として名を馳せる福岡県久留米市の尊称である。

 久留米市は2003年、焼鳥日本一を宣言した。根拠は人口1万人単位における焼鳥屋の数が日本一だそうである。市内には200軒がシノギを削っている。

 人口1万人当たりの焼鳥屋の件数は、7.46軒らしい。従来の焼鳥の街御三家は、久留米に加え北海道室蘭市、愛媛県今治市。これを一気に抜き去った。ちなみに東京は3.84軒、大阪は2.87軒、名古屋派1.32軒という調査結果がある。

 毎年9月4日は「94(くし)の日」とされ9月の第一土日は、メイン会場の六角堂広場に焼鳥ファンが殺到するフェスタも開催されている。

 焼鳥で一杯、という組み合わせは最強である。焼鳥日本一の街に来て、焼鳥で一杯やらずにすごすごと立ち去る勇気は私にはない。

 私はふと、疑問を持った。久留米に焼鳥屋が多いことは十分に納得できる。九州は地鶏王国でもあり、ブリジ●トンなど大手ゴム工場で従事する労働者の明日の活力を担っていたことは推測容易だ。

 では、「久留米やきとり」とは何か。普通の焼鳥と異なる点は何か。ここが分からないのだ。観光案内所で様々なパンフを入手し、解読を試みたが、定義を確認することができなかった。焼き方が特殊なのだろうか。食べ方が独特なのだろうか。

 雨がさめざめと降りしきる夜の久留米で、私は久留米やきとり調査団を結成した。団員は、隊長の私1人である。焼鳥屋の魅力は、一人で入りやすいことである。

 ‘久留米’と‘グルメ’を掛け合わせた「ぐるめマップ2010」を吟味し、どの店を攻略しようか作戦を練る。数多くの飲食店が掲載されているが、焼鳥屋は6店舗しか掲載されていない。ラーメン屋や焼肉など、他のカテゴリー店舗より少ないではないか。しかも、6店舗中4店舗は同系列店。実質3店舗だ。

 その中で私が選択したのが<久留米焼き鳥 ●風>。はっきりと「久留米焼き鳥」と銘打たれている。

 久留米最大の歓楽街・文化街の一角に店はある。ガラリとドアを開け、カウンターに腰かけた。数名の常連が店主店員と談笑している。

 焼酎の種類が40種類程度ある。どれもリーズナブルだ。関西でもよく見かける「黒霧島」の湯割を注文する。私は知らなかったが「赤霧島」「金霧島」もある。お通しの酸味の効いた和風ドレッシングがかかったキャベツをバリっとやりながら、メニューを再読した。〔次夜中編〕

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久留米やきとり(たぶん)。

(付記)
2017年3月上旬、仕事として初めて久留米に上陸することに。そういえば久留米ネタあったような気が…と探したら、ありました。6年以上前の2010年11月に書いていた死蔵ストック。読み返してもほぼ記憶なし。写真との整合性もあやふや。久留米死蔵ストックを5夜分発掘したので、来月訪れる久留米にご挨拶も兼ねて今日から5夜連続で久留米編。街や店は大きく様変わりしているようなので、2010年11月当時の空気感として御笑覧いただければ幸いです。今なら2夜分ネタを5夜分もねちっこく書いているのに気づき、当時は今と比べていかに暇だったかを痛感。死蔵ストックを150以上も発掘したので、いつか白日のもとにさらすことができれば。
posted by machi at 18:10| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする