<吉兵衛>。腹をすかせたガッツリ系神戸市民のソウルフードである。私も高校生に時に頬張ってから四半世紀。さすがに`だぶる´はキツくなってきたが、何か気合を入れたい時には挑まずにいられない私のビタミンである。
ある夏の遅めの午後。北九州の台所・小倉旦過市場すぐ横のホテルに引き籠ってPC猿打していた。ひと段落すると、空腹を覚えた。旦過市場で何か食べようか。いや、何を食べようか。
ホタホタと川沿いを歩く。魚町側と反対の入口へ。市場に突入すると、旦過市場の勉強会で月1回以上お世話になっているかしわ屋さんのK瀬氏とお会いした。黒S氏は鶏肉や惣菜を扱うお店と併設して<とりかつ丼の店 黒兵衛>を展開されている。
私の中の欠けていたピースが嵌った。とりカツ丼をワシワシいこう。何年か前に小倉の某フードコートで<黒兵衛>のとりかつ丼を頬張ったが、本店は未だ未踏だった。
時間は午後2時を回っているが、L字カウンターはびっしり。1席空いていたので腰掛けると、店の外で待っている客が。客層もスーツを着たサラリーマンやOL風、カップル、乳幼児を連れたベビーカーの母親など多岐にわたっている。
メニューを見る。とりかつ丼一択と思いきや、親子丼もある。唐揚とライスと吸い物を別々で頼むこともできるとある。親子丼に惹かれかけたが、ここは初志貫徹。とりかつ丼だ。しかし、サイズが4種類もある。ハーフ(450円)、並(580円)、大盛(680円)、ダブル(780円)。
腹は減っている。大盛にしよう。注文仕掛けた時、隣の細身のサラリーマンに「ダブルお待たせしました〜」と店員さんが絶妙の声がけ。つられて私も「ダブル、お願いします」。
予期せぬ展開にドギマギしつつボンヤリしていると、我が眼前にダブルが降臨。巨大な黒の丼鉢に強烈な量が収められている。カウンターから受け取ると、ズシリ重い。
無料の卓上漬物と紅生姜をぶち込み、喰らいつく。……。分厚く巨大なとりカツが2枚。これほどのサイズなのに柔らかい。絶妙の火通しにプロの技術を感じさせる。ダシと玉子との絡みもお見事。
不思議なのが、衣がサクサクしていること。半分まで一気食いだが、後半かなり厳しい展開となった。食べても減らない無限ループである。
オーナーのK瀬氏は神戸に来られた際、<吉兵衛>かつ丼に感動して店を開いたという。黒の丼鉢、ダブルという呼称、無料漬物、そして屋号。名字の一文字を取って<黒兵衛>に。豚と鶏は違うので一概に言えないが、神戸の魂が小倉に根付いている。
その夜。昼のダブルが効きすぎて空腹を感じぬまま旦過市場の若旦那衆たちと痛飲。K瀬氏にとりカツ丼の話を持ち掛けた。なぜあれほど旨いのか。なぜあれほどサクサクなのか。K瀬氏曰く、<吉兵衛>との調理法の違いを教えて頂いた。企業秘密(というほどでもないが)なのでここでは明かせないが、思わず深く首肯させられた。
<吉兵衛>のオーナーにぜひ小倉まで足を運んでいただき、<黒兵衛>のとりかつ丼を試していただきたい。ぜひ感想をお聞きしたいものである。オーナーが感動し、<吉兵衛>でとりかつ丼を新メニューに加えていただけるなら、神戸と北九州の新たな架け橋の誕生である。
遅めの昼は行列でした。
だぶる。
2016年11月29日
2016年11月28日
第1587夜:シメのシメ【小倉(北九州)】
<赤とんぼ>。北九州小倉の繁華街・鍛冶町に屹立する居酒屋風割烹(たぶん)である。居酒屋の達人・O田和彦氏『ふらり旅いい酒いい肴』(主婦の友社)でも紹介されている。この本、<赤とんぼ>で「余っちょうけん」といただいたのだが、O田氏が訪れた全国の居酒屋のうち、私も意外と訪れていた店が多く掲載されていたので嬉しい驚きだった。
普段から私だけでなく三陸宮古の商店街もたいへんお世話になっているY森氏とご友人、この人なしに私の北九州人生は語れぬ商工会議所M渡氏らとプチVIPルームで絶品料理やプレミアム焼酎を遠慮なくガバガバやっている過程で、酒シメ注文の流れになった。
私は1軒目で麺でも米でもシメ系はめったに口にしない。20年以上前から自宅で夕飯を喰うときはご飯でシメない。おかずと酒だけ。夜中に腹が減ればインスタントラーメンだった。外でも2軒目というより3軒目でシメを「啜る」。北九州ではうどんの夜も多いが、それ以外の街ではほぼラーメン一択である。
今回の同行氏たちは米系が多かった。必ずシメはご飯という。Y森氏は最後はご飯をツマミに酒をクィーっと呑むそうだ。ソースどぼどぼ飯ならともかく私は試したことなかったが、何となく興味が惹かれた。Y森氏が実に旨そうに表現されたからだ。
その夜は<赤とんぼ>で私はシメることなくお開きに。M渡氏と定番<ムーランルージュ>へ。泡盛か焼酎をカパカパやっていると、マスターが冷やしうどんを出して下さった。山芋短冊がトッピングされている。タレに浸してツルツル啜る。……。止まらない。うどんのモチモチと山芋のシャクシャクが口の中でエロチックに絡み合う。隣もM渡氏も馬啜だ。
2時間ほど呑んで店を出る。夜中1時。氏と別れ、いつもの小倉駅前常宿が確保できなかったので旦過市場横のホテルへ向かう。途中、視界に<丸和前ラーメン>さんが入った。`丸和´とは旦過市場入口の食品スーパー。24時間スーパーの先駆けでもある。私はこの夜限定ラーメン屋に入った記憶が定かではない。少しも空腹ではなかったが、おでんを2、3品つまんでビールを呑んで帰ろうか。
奥のロの字テーブルに腰掛ける。ロの真ん中には人間が入りそうなほど巨大な丸鍋があり、大量のおでんがグツグツ煮えている。まるでメリーゴーランドだ。
おでんをツマミにビールをやっていると、隣に座ったサラリーマンがラーメンを啜りだした。続いて入ってきたカップルもラーメンを注文。
私は絶品冷やしうどんでシメたばかり。さらにおでんでリスタートしている。腹は減っていないが、別腹の虫が騒ぎだした。
壁面メニューを見た。「替玉はない」と注意書きが。ある意味で安堵する。普通にラーメンと口に出そうになったが、チャーシューメンとネギラーメンに惹かれた。どちらにしようか。
1分という長考の後、私はメニューになかった「ネギチャーシューメン」と発した。
<ムーランルージュ>マスターの気まぐれヌードル。
シラフで入ったことなし。
大迫力のおでん鍋。
「赤星」で哀愁漂う一人酒。
メニューにないネギチャーシューメン。味はあまり覚えておらず。
普段から私だけでなく三陸宮古の商店街もたいへんお世話になっているY森氏とご友人、この人なしに私の北九州人生は語れぬ商工会議所M渡氏らとプチVIPルームで絶品料理やプレミアム焼酎を遠慮なくガバガバやっている過程で、酒シメ注文の流れになった。
私は1軒目で麺でも米でもシメ系はめったに口にしない。20年以上前から自宅で夕飯を喰うときはご飯でシメない。おかずと酒だけ。夜中に腹が減ればインスタントラーメンだった。外でも2軒目というより3軒目でシメを「啜る」。北九州ではうどんの夜も多いが、それ以外の街ではほぼラーメン一択である。
今回の同行氏たちは米系が多かった。必ずシメはご飯という。Y森氏は最後はご飯をツマミに酒をクィーっと呑むそうだ。ソースどぼどぼ飯ならともかく私は試したことなかったが、何となく興味が惹かれた。Y森氏が実に旨そうに表現されたからだ。
その夜は<赤とんぼ>で私はシメることなくお開きに。M渡氏と定番<ムーランルージュ>へ。泡盛か焼酎をカパカパやっていると、マスターが冷やしうどんを出して下さった。山芋短冊がトッピングされている。タレに浸してツルツル啜る。……。止まらない。うどんのモチモチと山芋のシャクシャクが口の中でエロチックに絡み合う。隣もM渡氏も馬啜だ。
2時間ほど呑んで店を出る。夜中1時。氏と別れ、いつもの小倉駅前常宿が確保できなかったので旦過市場横のホテルへ向かう。途中、視界に<丸和前ラーメン>さんが入った。`丸和´とは旦過市場入口の食品スーパー。24時間スーパーの先駆けでもある。私はこの夜限定ラーメン屋に入った記憶が定かではない。少しも空腹ではなかったが、おでんを2、3品つまんでビールを呑んで帰ろうか。
奥のロの字テーブルに腰掛ける。ロの真ん中には人間が入りそうなほど巨大な丸鍋があり、大量のおでんがグツグツ煮えている。まるでメリーゴーランドだ。
おでんをツマミにビールをやっていると、隣に座ったサラリーマンがラーメンを啜りだした。続いて入ってきたカップルもラーメンを注文。
私は絶品冷やしうどんでシメたばかり。さらにおでんでリスタートしている。腹は減っていないが、別腹の虫が騒ぎだした。
壁面メニューを見た。「替玉はない」と注意書きが。ある意味で安堵する。普通にラーメンと口に出そうになったが、チャーシューメンとネギラーメンに惹かれた。どちらにしようか。
1分という長考の後、私はメニューになかった「ネギチャーシューメン」と発した。
<ムーランルージュ>マスターの気まぐれヌードル。
シラフで入ったことなし。
大迫力のおでん鍋。
「赤星」で哀愁漂う一人酒。
メニューにないネギチャーシューメン。味はあまり覚えておらず。
2016年11月27日
第1586夜:創業50年余の焼肉スナック【元町(神戸)】(後編)
Y川氏率いる「句会」メンバーが到着。美女2人、Y川氏と神戸ゴミ分別キャラクター(ワケトン)デザイナー氏のイケメンコンビ、そして作業着上下の小太りな私。私は5人の中で明らかに浮いているが、この店の雰囲気には一番ハマっていたのかもしれない。
旨そうなロース肉がドカンと出てきた。どんどん焼いていく。口に運ぶ。蕩ける。ときどきレタスに包んで頬張る。瓶ビールで開始し、途中から焼酎へ。たまに日本酒。肉に自信ありというママの言葉に偽りなし。肉が無くなればおかわりだ。
程なくしてY川氏がカラオケモードに突入。スナックでカラオケは黄金の組み合わせだが(私は勧められない限り自分からはめったに唄いませんが)、宴会場のような大広間ではないカウンターだけのスナックで肉を焼きながらカラオケを聴いたのは初めてだ。
私も唄うよう指示された。曲を選ぼうと機械をいじっている間にもどんどん肉が焼けてくる。機械のスクリーンも脂まみれ。あんまり反応しない。
曲を入れた。私はよくBE●INのボーカル氏に似ていると言われるので、「オバー自慢の爆弾鍋」を入れた。唄う間にも肉が焼ける。ラフテージューシー昆布イリチー♪と叫びながら肉を口に運ぶ。肉を焼きながら唄ったのは初めて。まさに「焼肉スナック」の真骨頂である。
途中、デザイナー氏から美女に氏製作の壺の贈呈式があった。私はY川氏以外初めて面識いただいたので、その経緯が分からない。しかし立派で素敵でオリジナリティ溢れるデザインに感動。私は調子に乗って、プロのデザイナー氏に私の似顔絵を書いていただく。その横にワケトンもリクエスト。私、ワケトンにそっくりである。
肉を焼く。唄を歌う。壺を眺める。不思議な時間と空間である。常連さんはいつの間にか爆睡。ちなみに常連さんは焼肉を頬張らずツマミと酒を嗜まれていた。
客のすべてが焼肉を注文するわけではなさそうだ。もし私が一人で入って普通にスナック利用しているのに、隣の客がガス台で肉を焼きだしたら落ち着かないだろう。
元町高架下は神戸最強のディープスポットだが、その中でも<焼肉スナックはまさか>さんのディープさは群を抜いている。
ママさんにとっての商売のコツを教えていただいた。それは「客の名前を一切敢えて覚えない」こと。世間一般の常識からかけ離れているが、聴けば納得することもある。その理由を聞きたければ、このお店へ足を運ぶべし。初心者はかなりの蛮勇を必要とするだろうけど。
シュールな空間。
あまり反応しない。
肉を焼きながら唄う非日常。
旨そうなロース肉がドカンと出てきた。どんどん焼いていく。口に運ぶ。蕩ける。ときどきレタスに包んで頬張る。瓶ビールで開始し、途中から焼酎へ。たまに日本酒。肉に自信ありというママの言葉に偽りなし。肉が無くなればおかわりだ。
程なくしてY川氏がカラオケモードに突入。スナックでカラオケは黄金の組み合わせだが(私は勧められない限り自分からはめったに唄いませんが)、宴会場のような大広間ではないカウンターだけのスナックで肉を焼きながらカラオケを聴いたのは初めてだ。
私も唄うよう指示された。曲を選ぼうと機械をいじっている間にもどんどん肉が焼けてくる。機械のスクリーンも脂まみれ。あんまり反応しない。
曲を入れた。私はよくBE●INのボーカル氏に似ていると言われるので、「オバー自慢の爆弾鍋」を入れた。唄う間にも肉が焼ける。ラフテージューシー昆布イリチー♪と叫びながら肉を口に運ぶ。肉を焼きながら唄ったのは初めて。まさに「焼肉スナック」の真骨頂である。
途中、デザイナー氏から美女に氏製作の壺の贈呈式があった。私はY川氏以外初めて面識いただいたので、その経緯が分からない。しかし立派で素敵でオリジナリティ溢れるデザインに感動。私は調子に乗って、プロのデザイナー氏に私の似顔絵を書いていただく。その横にワケトンもリクエスト。私、ワケトンにそっくりである。
肉を焼く。唄を歌う。壺を眺める。不思議な時間と空間である。常連さんはいつの間にか爆睡。ちなみに常連さんは焼肉を頬張らずツマミと酒を嗜まれていた。
客のすべてが焼肉を注文するわけではなさそうだ。もし私が一人で入って普通にスナック利用しているのに、隣の客がガス台で肉を焼きだしたら落ち着かないだろう。
元町高架下は神戸最強のディープスポットだが、その中でも<焼肉スナックはまさか>さんのディープさは群を抜いている。
ママさんにとっての商売のコツを教えていただいた。それは「客の名前を一切敢えて覚えない」こと。世間一般の常識からかけ離れているが、聴けば納得することもある。その理由を聞きたければ、このお店へ足を運ぶべし。初心者はかなりの蛮勇を必要とするだろうけど。
シュールな空間。
あまり反応しない。
肉を焼きながら唄う非日常。
2016年11月26日
第1585夜:創業50年の焼肉スナック【元町(神戸)】(前編)
`焼肉スナック´。焼肉屋とスナックは星の数ほどあれど、この両者が合体した業態がこの世に存在するとは全く存じ上げなかった。しかも、私が生まれ育ち、今も住んでいる神戸で。それも元町高架下(モトコー6番街)で。
三陸宮古から8時間かけて帰神したある夏の夜。10年以上前にお世話になった神戸屈指の大企業フェ●シモY川部長とひょんなことから連絡が取れ、急遽呑みに行こうという話に。指定された店が<焼肉スナックはまさか>。場所以上に`焼肉スナック´という初めて目に耳にする文言が信じられなかった。最初、何のことかさっぱり分からなかった。
集合時間に間に合うよう怪しさ満点のモトコーを久々に歩く。10年ぶりか。相変わらずの独特の異臭と日本と思えぬ雰囲気にクラクラする。神戸駅に近づくほどシャッターだらけ。
6番街に着いた。19時前という時間のせいか、シャッター率99%。こんなところに焼肉屋があるのだろうか。スナックすらなさそうだ。
不安に駆られつつ歩を進めると「焼肉すなっく」と書かれた看板が出ていた。ドアの前に立つ。営業中の表示が裏返されている。もう一度案内メールを見直した。日時も場所も屋号も指定通り。
とてもイチゲンでこのドアを開ける気になれないが、恐る恐るドアを押す。……。開いた。思いっきりスナックである。カウンターのみで、7人も座れば満席だ。ママと目が合い、Y川氏の名を告げる。ママは気さくに「ここに用意してるから座って〜」。コッテコテの場末スナック感満載だが、大きく異なる点がある。カウンターに設置された焼台だ。
集合時間より早く着いた。「今日は予約(我ら5名)が入ったからもうええねん」ということで入口の電気も消し、営業中表示を裏返していたという。
所在なさげにキョロキョロしていると、60歳ちょっとに見えるママが話しかけて下さった。ご自分から年齢をお話になった。御年81歳(2016年8月現在)。立ち振る舞いもキビキビと凛があり、とても後期高齢者には見えない。店も創業50年を超すという。
神戸の知る人ぞ知る名物女将なのだろう。我が不明を恥じた。2010年に大阪の会社に転籍してから神戸は単なる居住地になり、日本中を飛び回る現在、縁遠くなってしまったようだ。
すっかり出来上がっている常連さんが座っておられた。常連さんとも会話を交わす。常連氏は大学卒業してからこの店に通い続け、50年近いという。しかも、毎日通っておられるそうだ。
何故焼肉スナックが誕生したのか。当初は焼肉専門だったらしい。ただ焼肉屋はしんどかったそうでスナックに業態変更。ところが焼肉屋時代の常連から焼肉も食べたいとリクエスト。それに応えた結果、ハイブリットな「焼肉スナック」が誕生したという。ただし、ホルモンは仕込みがタイヘンらしくロース限定である。〔次夜後編〕
初心者がこのドアを開ける勇気。
お肉は絶品。
三陸宮古から8時間かけて帰神したある夏の夜。10年以上前にお世話になった神戸屈指の大企業フェ●シモY川部長とひょんなことから連絡が取れ、急遽呑みに行こうという話に。指定された店が<焼肉スナックはまさか>。場所以上に`焼肉スナック´という初めて目に耳にする文言が信じられなかった。最初、何のことかさっぱり分からなかった。
集合時間に間に合うよう怪しさ満点のモトコーを久々に歩く。10年ぶりか。相変わらずの独特の異臭と日本と思えぬ雰囲気にクラクラする。神戸駅に近づくほどシャッターだらけ。
6番街に着いた。19時前という時間のせいか、シャッター率99%。こんなところに焼肉屋があるのだろうか。スナックすらなさそうだ。
不安に駆られつつ歩を進めると「焼肉すなっく」と書かれた看板が出ていた。ドアの前に立つ。営業中の表示が裏返されている。もう一度案内メールを見直した。日時も場所も屋号も指定通り。
とてもイチゲンでこのドアを開ける気になれないが、恐る恐るドアを押す。……。開いた。思いっきりスナックである。カウンターのみで、7人も座れば満席だ。ママと目が合い、Y川氏の名を告げる。ママは気さくに「ここに用意してるから座って〜」。コッテコテの場末スナック感満載だが、大きく異なる点がある。カウンターに設置された焼台だ。
集合時間より早く着いた。「今日は予約(我ら5名)が入ったからもうええねん」ということで入口の電気も消し、営業中表示を裏返していたという。
所在なさげにキョロキョロしていると、60歳ちょっとに見えるママが話しかけて下さった。ご自分から年齢をお話になった。御年81歳(2016年8月現在)。立ち振る舞いもキビキビと凛があり、とても後期高齢者には見えない。店も創業50年を超すという。
神戸の知る人ぞ知る名物女将なのだろう。我が不明を恥じた。2010年に大阪の会社に転籍してから神戸は単なる居住地になり、日本中を飛び回る現在、縁遠くなってしまったようだ。
すっかり出来上がっている常連さんが座っておられた。常連さんとも会話を交わす。常連氏は大学卒業してからこの店に通い続け、50年近いという。しかも、毎日通っておられるそうだ。
何故焼肉スナックが誕生したのか。当初は焼肉専門だったらしい。ただ焼肉屋はしんどかったそうでスナックに業態変更。ところが焼肉屋時代の常連から焼肉も食べたいとリクエスト。それに応えた結果、ハイブリットな「焼肉スナック」が誕生したという。ただし、ホルモンは仕込みがタイヘンらしくロース限定である。〔次夜後編〕
初心者がこのドアを開ける勇気。
お肉は絶品。
2016年11月24日
第1584夜:暗黙のルール【八戸(青森)】
中華そば200円の衝撃冷めやらぬその翌日。11時半に八戸のホテルをチェックアウトし、2日連続で中華そば200円食堂へ足を運んだ。前日に中華そばと稲荷寿司2ヶで300円という最安値コンビだったので、最高値メニュー「カツカレー」500円を試してみたかったからだ。
11時半開店だが、すでに満席。常連に相席させていただく。私は大きめの出張カバンと紙袋を持っていた。すると、別テーブルで定食らしきメニューを喰っているオヤジが荷物はそちらに置けと指示してきた。店主が早めに飯を喰っているようだ。厨房では年配の熟女とおそらくその娘さん(店主の女房?)が忙しそうにしている。店内は全員定食を喰らっている。
客が3人入ってきた。店主オヤジがココ(自分が座っていたスペース)が空くから座れと指示する。遠慮して外で待とうしている3人連れに座って待つように再度指示。その3人連れにオヤジは「この時間帯は定食中心だから、他のメニューは時間がかかる」と話している。
なるほど、ゆえに皆さん定食を食べているのか。私のカツカレーはかなりイレギュラーだったようで申し訳ない。私の眼前の相席オヤジはたっぷりライス、味噌汁、おかず数品に夢中で挑んでいる。メニューによると、定食は何故か時価。いくらなのだろうか。
カツカレーが運ばれてきた。福神漬も食べ放題。すごい量である。あれ、カツは…?ルーの下に隠れてきた。しかも巨大である。口に運ぶ。……。マイルドな家庭味である。
本格的なスパイス利きすぎシャバシャバカレーよりもドロリと家庭風を私は愛する。ゆえにカレーライスに関しては外食より家食派だ。カツもかなりの巨大さ。半分ほど夢中で食べ、卓上の中濃ソースをたっぷり掛けて後半戦に挑もうとした。
隣のテーブルの店主オヤジは食事が終わったようで、自分で食器を重ねて机を拭き、厨房に入って食器を洗いだした。席を立つ前に相席の3人組に座り位置を指示していた。忙しい時間帯の厨房2人態勢が3人に増員。これから本番なのだろう。
そこで、信じられない光景を目にした。洗い物を終わらせたオヤジは、お金を払い出した。「ごちそうさ〜ん」と出ていった。えっ?客だったのか。ちなみに定食値段は350円だった。
私の目の前のオヤジも食べ終え、食器を重ねて厨房に入って食器を洗いだした。すると別席の親子連れも厨房に入って洗いだす。まさか、食器を下げるだけでなく洗うこともセルフなのか。それとも、常連が独自に気を利かせた自主的振る舞いなのだろうか。食器洗いセルフサービスを告げる張り紙もない。
2度目の訪問なのに、店内ルールがさっぱり分からない。昨日は私より先に会計した常連がいなかったため分からなかった。昨日私は食べ終えた容器を放置して店を出てしまった。
食べ終えたら勝手に厨房に入って食器を自分で洗わねばならないのか。その疑問と不安で、最後は味が分からなかった。生まれて初めて、料理を食べ終わるこということが怖くなった。
最強コスパのカツカレーライス。ルーに隠れて巨大カツが。
決死の店内撮影(2日連続訪問の初日)。あのカウンターの奥の厨房へ、ルール分からぬイチゲンが飛び込む勇気を試される。
11時半開店だが、すでに満席。常連に相席させていただく。私は大きめの出張カバンと紙袋を持っていた。すると、別テーブルで定食らしきメニューを喰っているオヤジが荷物はそちらに置けと指示してきた。店主が早めに飯を喰っているようだ。厨房では年配の熟女とおそらくその娘さん(店主の女房?)が忙しそうにしている。店内は全員定食を喰らっている。
客が3人入ってきた。店主オヤジがココ(自分が座っていたスペース)が空くから座れと指示する。遠慮して外で待とうしている3人連れに座って待つように再度指示。その3人連れにオヤジは「この時間帯は定食中心だから、他のメニューは時間がかかる」と話している。
なるほど、ゆえに皆さん定食を食べているのか。私のカツカレーはかなりイレギュラーだったようで申し訳ない。私の眼前の相席オヤジはたっぷりライス、味噌汁、おかず数品に夢中で挑んでいる。メニューによると、定食は何故か時価。いくらなのだろうか。
カツカレーが運ばれてきた。福神漬も食べ放題。すごい量である。あれ、カツは…?ルーの下に隠れてきた。しかも巨大である。口に運ぶ。……。マイルドな家庭味である。
本格的なスパイス利きすぎシャバシャバカレーよりもドロリと家庭風を私は愛する。ゆえにカレーライスに関しては外食より家食派だ。カツもかなりの巨大さ。半分ほど夢中で食べ、卓上の中濃ソースをたっぷり掛けて後半戦に挑もうとした。
隣のテーブルの店主オヤジは食事が終わったようで、自分で食器を重ねて机を拭き、厨房に入って食器を洗いだした。席を立つ前に相席の3人組に座り位置を指示していた。忙しい時間帯の厨房2人態勢が3人に増員。これから本番なのだろう。
そこで、信じられない光景を目にした。洗い物を終わらせたオヤジは、お金を払い出した。「ごちそうさ〜ん」と出ていった。えっ?客だったのか。ちなみに定食値段は350円だった。
私の目の前のオヤジも食べ終え、食器を重ねて厨房に入って食器を洗いだした。すると別席の親子連れも厨房に入って洗いだす。まさか、食器を下げるだけでなく洗うこともセルフなのか。それとも、常連が独自に気を利かせた自主的振る舞いなのだろうか。食器洗いセルフサービスを告げる張り紙もない。
2度目の訪問なのに、店内ルールがさっぱり分からない。昨日は私より先に会計した常連がいなかったため分からなかった。昨日私は食べ終えた容器を放置して店を出てしまった。
食べ終えたら勝手に厨房に入って食器を自分で洗わねばならないのか。その疑問と不安で、最後は味が分からなかった。生まれて初めて、料理を食べ終わるこということが怖くなった。
最強コスパのカツカレーライス。ルーに隠れて巨大カツが。
決死の店内撮影(2日連続訪問の初日)。あのカウンターの奥の厨房へ、ルール分からぬイチゲンが飛び込む勇気を試される。