ある夏の遅めの午後。北九州の台所・小倉旦過市場すぐ横のホテルに引き籠ってPC猿打していた。ひと段落すると、空腹を覚えた。旦過市場で何か食べようか。いや、何を食べようか。
ホタホタと川沿いを歩く。魚町側と反対の入口へ。市場に突入すると、旦過市場の勉強会で月1回以上お世話になっているかしわ屋さんのK瀬氏とお会いした。黒S氏は鶏肉や惣菜を扱うお店と併設して<とりかつ丼の店 黒兵衛>を展開されている。
私の中の欠けていたピースが嵌った。とりカツ丼をワシワシいこう。何年か前に小倉の某フードコートで<黒兵衛>のとりかつ丼を頬張ったが、本店は未だ未踏だった。
時間は午後2時を回っているが、L字カウンターはびっしり。1席空いていたので腰掛けると、店の外で待っている客が。客層もスーツを着たサラリーマンやOL風、カップル、乳幼児を連れたベビーカーの母親など多岐にわたっている。
メニューを見る。とりかつ丼一択と思いきや、親子丼もある。唐揚とライスと吸い物を別々で頼むこともできるとある。親子丼に惹かれかけたが、ここは初志貫徹。とりかつ丼だ。しかし、サイズが4種類もある。ハーフ(450円)、並(580円)、大盛(680円)、ダブル(780円)。
腹は減っている。大盛にしよう。注文仕掛けた時、隣の細身のサラリーマンに「ダブルお待たせしました〜」と店員さんが絶妙の声がけ。つられて私も「ダブル、お願いします」。
予期せぬ展開にドギマギしつつボンヤリしていると、我が眼前にダブルが降臨。巨大な黒の丼鉢に強烈な量が収められている。カウンターから受け取ると、ズシリ重い。
無料の卓上漬物と紅生姜をぶち込み、喰らいつく。……。分厚く巨大なとりカツが2枚。これほどのサイズなのに柔らかい。絶妙の火通しにプロの技術を感じさせる。ダシと玉子との絡みもお見事。
不思議なのが、衣がサクサクしていること。半分まで一気食いだが、後半かなり厳しい展開となった。食べても減らない無限ループである。
オーナーのK瀬氏は神戸に来られた際、<吉兵衛>かつ丼に感動して店を開いたという。黒の丼鉢、ダブルという呼称、無料漬物、そして屋号。名字の一文字を取って<黒兵衛>に。豚と鶏は違うので一概に言えないが、神戸の魂が小倉に根付いている。
その夜。昼のダブルが効きすぎて空腹を感じぬまま旦過市場の若旦那衆たちと痛飲。K瀬氏にとりカツ丼の話を持ち掛けた。なぜあれほど旨いのか。なぜあれほどサクサクなのか。K瀬氏曰く、<吉兵衛>との調理法の違いを教えて頂いた。企業秘密(というほどでもないが)なのでここでは明かせないが、思わず深く首肯させられた。
<吉兵衛>のオーナーにぜひ小倉まで足を運んでいただき、<黒兵衛>のとりかつ丼を試していただきたい。ぜひ感想をお聞きしたいものである。オーナーが感動し、<吉兵衛>でとりかつ丼を新メニューに加えていただけるなら、神戸と北九州の新たな架け橋の誕生である。

遅めの昼は行列でした。

だぶる。