<A&W>は沖縄県内全域を統べる。しかし2016年2月現在、沖縄県以外で見かけたことはない。まさに沖縄県民にとって最強のファストフードでありジャンクなソウルフードである。
ところが、沖縄顔だが20歳を超えるまで沖縄に足を踏み入れたことのなかった私にとっても人生最初のファストフードが<A&W>であり、物心がはっきりつくまで最もかぶりついていたソウルフードでもある。厳密にいえば、私だけではない。2016年2月現在で40歳を超え、30年前に神戸新長田に居を構えていた御仁たちにとっては私と同様のはずだ。
新長田駅前にジョイプラザという商業施設があり、新長田1番街商店街に面したその1階に<A&W>があったことを鮮明に覚えている。
自宅から半径500m以内が全世界のすべてだった小学校低学年時代。バーガーショップといえば<A&W>だった。他に選択肢がなかった。日本中どこにいっても存在すると疑わなかった。マクド●ルドなど100万光年離れた遠い星だった。
物心がつく10歳前後まで新長田のバーガー需要を満たしていたと記憶するが、いつの間にか消失していた。30年前はハンバーガーなど超高級品。小学生低学年同士で足を運ぶ小遣いなどなかった。一番安いハンバーガーで1ヶ200円ほどだったかもしれない。人生初のフライドポテトもA&W。ポテトチップスしか齧ったことのない私にとって衝撃の連続だった。
A&W必殺のドリンクは、冒頭の「ルートビア」。同級生の間で「あれは実はビールらしいで」「呑んだら酔うらしいで」と実しやかな都市伝説も流布していたように思う。私も呑んだことがあるはずだが、ルートビアの味だけでなくすべて味を忘れていた。
2016年2月中旬。沖縄県名護市の世冨慶バス停に降り立った私は、中心市街地へホタホタ歩いていた。風が強い。目的地まで徒歩20分。昼食は毎度沖縄そばだったので、たまには異なる沖縄フードを腹に入れたい。その途中にファミレスサイズの大きな<A&W>があった。
時間は13時。およそ30年ぶりに店内へ突撃。メニューをみる。……。えっ、こんなに高いの?しかも手ごろなセットメニューがない。単品で最安値のハンバーガーと野菜たっぷりモッツアバーガー、カーリーフライとルートビアを注文。軽くワンサウザンドハンドレッドオーバーだ。
ハンバーガーにかぶりつく。……。普通に美味しいが、全く記憶が震えない。ルートビアを呷る。……。爽快さを通り越した濃密な甘さだ。確かに刺激的だが、こんな味だったのか。
生ビールを鯨飲するオッサンにとって、30年ぶりのルートビアは少年時代の想い出を呼びさますことなく、この30年間の我がある意味で激動の人生の高低に想いを馳せる味となった。

奥の褐色が「ルートビア」。

ファミレスより巨大。