2016年03月30日

第1420夜:緩急と特濃【名護(沖縄)】(後編)

 最初からテーブルに設置されていた小鍋の携帯燃料に点火された。フタを空ける。豚肉と野菜である。上品な出汁を啜る。……。心が洗われる。絶妙という言葉しか思い浮かばない。

 小鍋でシメと思いきや、更なる逸品が運ばれてきた。沖縄そばのざるそばである。巨大隕石落下級の衝撃だったので、別途このバカブログで紹介する。

 トイレから戻ってくると、デザートが運ばれてきた。ぜんざいであるという。私はぜんざいが苦手な上に、すでに満腹。勿体ないが手をつけずに遠慮しよう。

 ……。しかし、何か感じるものがあった。普通のぜんざいにはないオーラを感じる。器を手に取ってみる。……。あれ、冷たい。冷えたぜんざい?……。

 あずき色に混じって気づかなかったが、チョコアイスらしきブツがトッピングされている。O城氏曰く、沖縄独特の「アイスぜんざい」であるそうだ。付き出しからデザートまで驚かされっぱなし。

 ぜんざいを食べた記憶など少なくともこの15年間ない。餅も好まないので、私は正月すら雑煮を食べない。しかし、ここは沖縄。蛮勇を振り絞って試してみる。

 ……。おや、それほど甘くない。チョコの冷たさとほろ苦さが絶妙に馴染んでいる。緑がかった白玉のような物体が入っており、これが餅かわりなのだろう。

 球速差100qの緩急に空振りの山を築きながら店を出る。沖縄独特の互助呑み会「模合(モアイ)」が大西通り会<リッチ>さんで開催されていた。O城氏参加の模合であり、私も飛び入り。1時間半遅れの参加だが、沖縄呑み会は2時間遅れなど普通。違和感なく溶け込める。

 スナック風の店内だが、奥は広々。ライブハウス会場のようである。10人ほど居られただろうか。私とは皆さん初対面だが、場は濃厚極まりない風情を醸し出している。

 真剣に話し込んでいるグループとカラオケグループに分かれた。私は唄わなかったがカラオケグループに。沖縄何とかスクール一期生だったというイケメンで歌も踊りも上手だがゲイでオネエのアラフィフオヤジを始め、バーを経営しているが店を開けたままほったらかして模合で呑みまくっている豪快なママ、マイクを話さないベテラン士業先生。キャラが濃すぎる。

 私はママさんに沖縄民謡をリクエスト。超絶に唄の旨いママさんの歌声に耳を傾けながら泡盛(何故かジョッキでナミナミと)を鯨飲。気持ちよい沖縄の夜が溶けていく。

 ママさんの店でワンクッション置き、ビールで再度乾杯しながら生のシークワサーも初めて試す。……。すっぱくて目が白黒する。それから結局明け方4時ごろまでO城氏とラウンジ2軒ハシゴ。オッサン2人だが、たまたま空いていて沖縄美女が8人も付いて下さる。

 O城氏が「この人は神戸から来ました!」と美女たちに私を紹介する。「へぇ〜神戸!いいなぁ〜」「行ってみたいわ〜」「遠くからお疲れ様で〜す!」と声を掛けられるものと思い込み、その返答も用意していた。ところがその瞬間、8人の嬌声がほんの一瞬店内から消えた。

 皆さんから一斉に出た言葉はただ一言「エッ‼?」。

 ……。あれ?なんだこの雰囲気は。永遠に感じられた1秒が経過した後、8人が一斉に同じ言葉をハモった。

 「エッ‼?沖縄の人じゃないんですか?」。

 模合の皆さんに負けぬほど、私も特濃沖縄顔である。

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独特の沖縄スィーツ「アイスぜんざい」。

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模合にて、真剣に話し込むグループとカラオケグループに。
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2016年03月29日

第1419夜:緩急と特濃【名護(沖縄)】(前編)

 <山吹>。沖縄県名護市中心部にそびえ立つ<ホテル山田荘>にほど近い、名護唯一の本格割烹である。名護はプロ野球・日ハムのキャンプ地。ハムご用達という。オーナー氏とは名護市内のラウンジで偶然お会いし、意気投合した記憶がある。その際名刺交換させていただき、後日オーナー直筆の葉書が送られてきた。感激である。

 沖縄にしては冷え込んだ1月中旬。私はYシャツの上にジャケットというこの時期の神戸では考えられぬ軽装だが、神戸でも見かけない極厚ダウンを寒そうに着こんだ名護市民を見かける。寒さに弱いと思しき沖縄人らしいが、冬の着こなしを満喫しているようで微笑ましい。

 名護大通り会O城会長とミッション終了後に前述の<山吹>さんへ。個室へ通される。オリオン生でガツンと乾杯した後、重箱に上品に並べられた手間を尽くした9種類の付き出しが降臨する。菜の花、赤蕪、島豆腐、あん肝、烏賊マリネ、鰻蒲焼、グルクン寿司、サーターアンダギー……。これだけで何杯でも酒が呑めそうである。

 実際に何杯かオリオン生を呑んだ後、刺身が運ばれてきた。美しい透明のガラス皿に盛り合せられている。しかし、なぜか皿そのものが器に乗せられている。見たことにないビジュアルである。何だろうと凝視したら、氷で作った平皿だった。型を特注したそうだ。刺身はいつまでも冷たく鮮度が保たれている。しかも、皿のふちが溶けず、溶けた水は容器に貯められる。

 不思議なことに、刺身がいつまでも水っぽくならない。ゆえにダラダラと刺身をツマミに飲むことができる。氷皿に心奪われ、何の刺身を満喫したのか覚えていない。

 氷の世界に身を委ねた後は、熱々揚げたての天ぷら盛合せ。160qのストレートの後に、90q代のスローカーブ。強烈な緩急である。天ぷらは3種類。定番の海老もかなり仕事が加えられている。サクサクのプリプリだ。オリオン生が爽やかに口内の上品な脂を洗い流していく。アボカドの天ぷらもユニークで面白い食感。しかし、最後の1種類が目視で分からない。

 正体を知るO城氏が何だと思うか尋ねてくる。全く想像もつかない。考えを放棄し、串にささった謎のタネにかぶりついた。……。思わず目を見開いた。ウォっという呻きが漏れた。

 最初、何かのベーコン巻かと思った。ただそれはほんのコンマ1秒の感覚。ジュワっとほろ苦い酸味が口の中に溢れる。種があった。気にせず砕いて呑み込む。シークワサーの天ぷらだった。シークワサーはチューハイしか試したことがなかった。これぞまさに沖縄天ぷらである。

 そろそろ打ち止めかと思いきや、楕円形の石が運ばれてきた。石の周りの気温が上がった気がする。生肉が運ばれてきた。触ると危険な焼切られた石の上で、肉を焼く。ジュワっと音が弾け、一気に煙が上がる。秒殺で焼ける。塩をチョン付けして口に運ぶ。

 ……。私の口角は嬉しさでつり上がったまま。繊細と野趣が高レベルで融合した驚愕の緩急。氷の平皿、揚げたて沖縄天ぷら、灼熱の石焼。もはや消える魔球である。〔次夜後編〕

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アテとして無敵の9種盛と上品な出汁が嬉しい小鍋。

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氷皿に乗せられた刺身。

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沖縄らしい天ぷら3種。

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石焼の魔術。
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2016年03月28日

第1418夜:「ブラックライダー」気分【名護(沖縄)】

 <HAN‘S>。名護の中心部・大通り商店会内に位置するステーキハウスである。私のミッション先でもあり定宿でもある<ホテル山田荘>さんから徒歩30秒程度だ。

 沖縄には旨いものがたくさんある。まさに沖縄でしか味わえない独特の郷土料理だが、沖縄料理というカテゴリーに属さぬかもしれないが隠れた(思いっきり目立ってますが)名物がある。「ステーキ」である。それも妙な動物の肉ではなく、正真正銘の牛である。

 那覇空港から名護へ向かうバス車中、『ブラックライダー(上・下)』(東川彰良 新潮文庫)を読み進めていた。今から100年後以上の世界が何らかの理由で崩壊したアメリカ大陸が舞台。西部劇のような雰囲気だが、あまりにも異様な世界観。要するに、主食が「人肉」になっている世界。人肉を食べるために何の理由もなく人を殺しあう強烈すぎる世界だ。

 作中に食事シーンが頻繁に出てくる。旨そうにステーキを頬張るシーンがほとんどだが、それが人肉。当面ステーキや焼肉は敬遠したくなる描写ばかり。人肉ばかり食べたらダメという論理が働き、人間と牛の遺伝子を掛け合わせた新たな「食肉」が台頭しつつある設定だ。

 名護到着後、20分ほど歩いて中心部の大通り商店会へ。沖縄そばを啜るつもりが、前から気になっていたホテル近接のステーキハウス<HAN’S>さんのドアを開ける。先ほどの強烈すぎるステーキ描写が頭にこびりついていたのだろう。避けるどころか、逆に吸い寄せられた。

 ランチメニューがパワフルである。ストリップロインステーキ200g1200円、サーロインステーキ200g1200円、ハンバーグ200g1200円、チキン香草オリーブオイル焼400g1200円。他にもチルドビーフステーキが300gで1850円など。

 ストリップロインとサーロインの違いをお聞きした。前者はそのまんまの牛肉で歯ごたえがあり、後者は柔らかいが加工牛という。たしかにメニューに「加工牛」と書かれていた。違いがよく分からぬが、先ほどの小説の世界観を引きづっていた私は「加工牛」に惹かれた。

 ミッション開始1時間前、ビール厳禁。ライスを付け合わせようとしたら、店員オネエサンがドリンクバー(各種ジュースや珈琲)、新鮮野菜ビュッフェが無料食べ放題とおっしゃる。

 ビュッフェコーナーに足を運ぶ。私は目を疑った。鼻息が荒くなった。数種類の生野菜と数種類のドレッシングだけではなかった。惣菜(マカロニサラダ・サーターアンダギー・トルティーヤ・切干大根沖縄風・マリネなど)やライスだけでなく、カレーも食べ放題。スープもあった。これに、200gのサーロインステーキが別途現れる。

 生野菜とスープ、カレーライス、切干大根を我がテーブルに並べた。本日一食目、空腹の極み。100年後の地球崩壊カウボーイの気分で野菜に食らいつく。……。フレッシュである。ドロドロに腐りきった血が浄化されそうだ。

 程なくしてプシュプシュ音を立てながらサーロインが降臨。オリジナルステーキソースだけでなく、わさび醤油も添えられている。切れ味鋭いナイフでスッとカット。

 まずは塩胡椒だけで口に運ぶ。……。太古の野生のDNAが何かに呼応した。店内がアメリカンなステーキハウスからジュラ●ックワールドに変貌を遂げた。カレーライスのルーが掛かっていないところを口に運ぶ。肉と白米の口内コラボに悶絶する。

 惣菜を食べ、ステーキソースや山葵醤油を駆使しながら、肉に食らいつく。人肉には全く関心ないが、牛肉は関心全開。豚も羊も愛している。沖縄名物の山羊は……これから愛していく。

 満腹になった。私の体の細胞の一つ一つがAKIRAのように膨らみ始めた。

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200gサーロインステーキ。

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食べ放題ビュッフェからチョイス。

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アメリカンテイスト溢れる外観。

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決して万人受けしないが、大傑作と呼び声高い『ブラックライダー(上・下)』。
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2016年03月27日

第1417夜:Central Park Avenue【宮古(岩手)】(その五)

 2015年10月中旬、「宮古街なか復興市2015秋」。この日が実質的なトライアル事業のキックオフとなった。初日は先着でラベンダーの花束プレゼントとサシャ(匂い袋らしい)作りワークショップ。2日目はハロウィンを控え、巨大カボチャを使ったランタンづくり。特にカボチャは大人気で予定数量があっという間に消失。子供より親が夢中になっていたけれど。

 その1か月後、今度は中央通に咲く植栽のメンテナンスが実施された。メンバーは商店主、商店街の植栽サポーター団体「みずき会」様、そして本事業サポーターに応募、ご登録いただいた地域住民の方々。特にご応募いただいた方には一同感謝感激である。

 植栽を植え替え、落ち葉を拾い、雑草を摘み取る。皆さん準備も万端で実に手際よく手慣れている。生まれてから40年以上、植栽を含めた緑化事業すべてに何の関心も示してこなかった私にとって、少なくとも物心がついてから初の土いじりかもしれない。

 皆さんの手際を見てマネようと考えるが、さっぱり分からず右往左往するばかり。私にもお手伝いできそうなのは、落ち葉拾いと雑草むしりぐらい。夢中で取り組んでいると、平素の邪心や妄想が消え、汚れた精神が純化される気がする。商店街の歩道とはいえ、土に、自然に親しむことは人間のDNAレベルに彫り刻まれた満足なのかもしれない。

 サポーターに登録し会員カードを協賛店(マップとステッカーが目印)で提示すると、各店趣向を凝らした割引などのサービスを受けることができる。協賛店は今後も増やしていき、魅力を高めていく所存だ。

 2015年12月頃より、中央通商店街内の災害公営住宅への入居が始まった。年が明けて2016年1月上旬。社会福祉協議会様の絶大な協力を賜り、公営住宅内の集会所で被災された新住民の方々を対象に「ハイドロカルチャー」(室内園芸のようなもの)づくりワークショップを実施させていただくことになった。

 その貴重な時間内に、植栽サポーター募集やサポーター登録による買い物特典情報を中央通商店街S本事務局長が皆さまに説明することもできた。

 老若男女、夢中でハイドロカルチャーづくりに取り組んでいただけた。徐々に要領を掴んでくると、皆さまから会心の笑顔が弾けだした。私も思わず笑みが漏れる。

 新住民の皆さまにとって不安いっぱいの新生活と推測される。これから住宅内の自治組織も整備されていくだろう。新住民と旧住民が商店街を交流の場としてコミュニティを深め、季節の花々を愛でながらお買い物を楽しんでいただく。時には、共に汗を流す。

 ニューヨークのセントラルパークやロンドンのハイドパークに規模は勝てぬが三陸の皆さまにとって無くてはならない心の「Central Park Avenue」へ。皆さま、三陸へ訪れた際は、ぜひ商店街にも足をお運び下さいね。花々と笑顔でお待ちしています。〔終〕

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冬枯れの花香る散策路。

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災害公営住宅の皆さまとハイドロカルチャーワークショップ。
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2016年03月26日

第1416夜:Central Park Avenue【宮古(岩手)】(その四)

 宮古市役所本庁舎・分庁舎移転に伴う跡地活用計画は全くの未定(庁舎移転そのものが12月下旬、市議会で否決)だが、癒しと利便性を兼ね備えたる「セントラルパーク商店街」として、三陸被災商店街の復興の旗頭として期待を集めている。

 震災前までの宮古は土地に余裕があり、各家庭の庭で園芸を趣味にされている方が大勢居られた。大津波以降、居住制限により仮設住宅での生活や親戚宅等への避難、内陸の都市部への避難、災害公営住宅に限らず中央通内外に新築されたアパート等に入居された方は植栽活動に制限がある。植栽に取り組みたいという地域住民のニーズは潜在していると推測された。

 アピールポイントは、被災されて転居を余儀なくされた中央通商店街の災害公営住宅に移り住む新住民に対し、植栽活動を通じた新たな地域コミュニティの場を提供することである。

 新住民と旧住民、住民と商業者の繋がりを強めることで、新住民の方々の不安を少しでも取り除くことができればこれ幸い。また、新住民を新たな中央通の顧客として買い回りの向上につなげていくことも目標である。では、具体的にどのような試みが実施されているのか。

(1) 商店街組合員(既存・新規)と地域住民(新・旧)が共同で取り組む植栽活動の実施

 商店街組合員、地域住民、災害公営住宅入居者等新たに中央通近辺で新生活を始めた新住民が中央通の植樹を共同整備。共同作業を通じて新旧住民同士、住民と商店主の交流促進を図る。

(2) 植栽サポーター買物特典サービスの実施

 植栽サポーター対象に中央通商店街協賛店(賛助会員店含む)でお得な割引やサービスを受けられる会員証を発行。中央通商店街での買物機会向上やファンづくりのキッカケに。また、買物特典を契機に植栽サポーターの増加を促し、活動の充実と買物機会向上の循環を目指す。
 
(3) 花香る散策路マップの作成

 表面に花香る散策路の紹介を兼ねた商店街マップを掲載、裏面に特典協賛店(賛助会員含む)特典の内容を記載したマップを製作。

(4) 花香る散策路サイン表示の整備

 中央通の植栽花壇ごとに「花香る散策路 中央通商店街〜セントラル・アベニュー」と表示した植え込み(付き刺し)式サインをデザインし、各所に設置。植栽活動のPRと共に、中央通商店街という表示がない、商店街の範囲が分からないという住民のご意見に対応する。

(5) 活動啓発イベントの開催

「宮古街なか復興市2015秋」に合わせ、家族で参加できるカボチャランタン作りワークショップを開催。参加者に植樹サポーターへの登録を促した。植栽に関する講習会に合わせ、手作りワークショップを併催。植栽サポーターだけでなく広く住民に参加を呼びかけ、ラベンダーの香りがするローソク作り、ポプリ作り、チューリップを扱った企画も目白押しだ。〔次夜その五〕

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住民の方々と一緒に植栽活動。

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植栽サポーターの方々に特典をご用意。
posted by machi at 08:37| Comment(0) | 岩手県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする