2016年01月31日

第1380夜:時空を越えたボジョレヌーボー【名護(沖縄)】(前編)

 模合(もあい)。沖縄独特の互助会である。頻繁に沖縄入りするようになると、「モアイ」という単語をかなりの頻度で耳にする。用途としては「今日はモアイだから」。モアイといえば通常イースター島しか連想できないが、沖縄ではカタカナではなく「模合」という漢字である。

 模合システムとは何か。親(胴元)が模合を呼びかける。親とか胴元という単語を使うと賭け事にしか思えぬが、要するに発起人(呼びかけ人)である。それに呼応する人が仮に11人集まれば12人の模合が成立する。月に1回がどこかの呑み屋で模合が開かれる。

 参加者は呑み喰い、談笑し、呑み代金以外に別途「模合金」(だったかな)を徴収される。例えば3000円呑み代とは別に1万円収める。その1万円は12万円集まる。その際、12人の中の一人が12万円を受けとることができる。

 急な出費が必要な際などに備えて積み立てた金を返してもらうような制度であり、利息が付くわけでもない。ただし、胴元(呼びかけ人)の信用と信頼感が試される。最初に12万円ゲットして失踪してしまう恐れもあるからだ。

 私自身よく分かっていないので上手く説明できないが(名護大通り会S吉氏にいただいた模合を考察した論文を拝読しましたが)、模合は呑み会を開催するための口実に過ぎない一面が強いそうだ。しかし、1回100万円の模合もあるという。

 2015年11月中旬、名護市大通り商店街を中心とした模合会にお招きいただいた。私はゲスト扱いなので模合金を負担する必要はない。日中の気温が30度を超え、凄まじい湿度に汗ドボドボに。夜20時になっても蒸し暑い。ホテルの部屋でシャワーを浴びて汗を流した後、模合会場となった<雲茶>さんへ。地中海料理のお店だが、栄螺壺焼が半端なく絶品である。

 沖縄人の呑み会は大らかである。1時間、2時間遅れは普通。結婚式でも乾杯の発生の前に着席した者から呑み始めるそうだ。早めに来られた御仁らと生で乾杯。日中の汗で焼失した水分が末梢神経の細胞まで補充されていくのが実感できる。オリオンビールの工場が大通り商店街にほぼ隣接しており、名護で呑むオリオンがどこよりも旨いという。

 料理がどんどん運ばれてくる。模合メンバーも都度集まってくる。一人で幾つもの模合を掛け持ちしているという。20時から呑み始めて約2時間後、模合メンバーが揃った。私は生を数杯呑んだ後、白ワインをグビグビ鯨飲していたのだが、これからが本番である。

 宴もたけなわ(開始から4時間後)に近づきだした頃、2本のワインが卓上に降臨した。同じ形状、同じラベルに見える。模合当日は2015年11月18日。翌19日がボジョレヌーボーの解禁日だった。24時と当時に一斉に乾杯しようというバブルな趣向だったが、私の想定をさらに上回るサプライズが企画されていた。〔次夜後編〕

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「模合」の真っ最中。

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2本のボジョレヌーボー。
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2016年01月30日

第1379夜:うっかり八兵衛【小倉(北九州)】

 うっかり八兵衛。コワモテ揃いの水戸黄門御一派になぜ加わってご老公の御伴を仰せつかっているのかその理由がよく分からぬ愛嬌あふれる人気物である。ご老公は可愛らしいダメ息子のような慈愛の目を注いでいる。

 ある晩秋の北九州小倉・黄金町市場商店街の夜。市役所や会議所の皆さまと勉強会終わりに軽くイッパイやるかとフラフラしていると、閉店間際だったが<八兵衛>さんの灯りが煌めいていた。カウンターで揚げたて熱々の天ぷらを頬張れるシアワセを極めた天ぷら屋である。

 カウンターに陣取る。メニューをガン見する。6品入った天ぷら定食がたったの680円。カウンタースタイルの天ぷら屋らしくビールは瓶のみだが、ノドをスッキリ開かせる。

 私は夜に米を腹に入れる習慣は20年以上ないので、天ぷら一択。卓上の無料食べ放題漬物が3種類もあり、シアワセを倍加させる。拘った塩もある。単品も大充実で。野菜はたしか80円均一だった。魚系も120円からで最高値でも300円。安すぎる。

 目移りした私はまずは天ぷら盛合せ(要するに、天ぷら定食のライス・味噌汁抜き)。談笑していると、プシプシと油が跳ねる音が聞こえてくる。もはや音楽である。一品づつ揚げたてをカウンターに配膳される。天ぷら専門店の5分の1以下の価格なのに、スタイルは王道だ。

 1番バッターは玉葱。大きい。塩をチョン漬けして頬張る。……。甘みが口の中に広がる。残り半分はタレ(ツユ)にどっぷし。思わず目を細める。2番バッターはシメジ。これもたっぷりと大きい。同じくまずは塩で。ザクッとしが歯ごたえと衣が解ける舌触り。野趣あふれる風味がタマラナイ。残りは出汁にたっぷりと浸す。

 3番バッターの海老はプリプリ。4番バッターは鱚。初回から打者一巡の猛攻である。勝負強い5番バッターはなすび。走者一掃する6番バッターは南瓜。しぶいラインナップである。

 熱燗に切り替えたいがまもなく店じまい。私は慌て気味に季節限定の牡蠣を追加。2ヶで200円。安すぎる。熱々を頬張る。口の中で極上の海のミルクが海底火山のように溢れだす。シメは小エビ、玉ねぎ、三つ葉入りのかき揚げ。超弩級の長距離砲でフィナーレを飾る。

 これだけの質量、銀座や北新地ならいくらかかるか分からない。コスパ最強。スキのない、うっかりが微塵もない「八兵衛」である。黄金地区には他に七兵衛、九兵衛という店があるらしい。親戚でも一族でもないようだが、すべて制覇してみたい。

 サクッと解散し、私は一人モノレールで<ムーランルージュ>へ。マスターが釣ってきたというアカカブ(メバルの一種)の煮付、鰯のぬか炊き、鰹を散らした野菜サラダ、蛸の素揚げ、胡瓜漬。すべてマスターの手作りで、常連メニューである。M渡氏の焼酎ボトルを勝手にロックで鯨飲していると記憶が飛んだ。

 翌朝、二日酔いに苦しみながらスマホをいじっていると、明らかにムーランではない店の料理画像が。しかも、ステーキである。全く覚えていない。撮影時間は深夜1時半ごろ。記憶を無くした私の行動は、カザグルマのヤシチでもスケさんでもカクさんでもなく、常に「うっかり八兵衛」である。

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揚げたて天ぷらと卓上食べ放題漬物。

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もはや「書」の世界。
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2016年01月29日

第1378夜:雑炊の薬味【小倉(北九州)】

 雑炊。忘年会シーズンのみならず、日本中を席巻している鍋のシメである。私は米派ではなく麺派。鍋のシメにはラーメン、うどん、ちゃんぽん麺などをぶち込みたい欲求を抑えきれず、毎年鍋の具材をあらかた食べつくした後、米派と激しいバトルを繰り広げている。

 そんな私でも、麺ではなく米に後塵を拝さざるおえない鍋がある。フグとカニである。めったに口に出来ないけれど。

 ある夜。三陸宮古まで復興市の応援に来て下さったママが経営する北九州小倉の割烹<赤とんぼ>へ数人で足を運んだ。毎年のように「わかちあいイベント」の収益を三陸宮古まで足を運んでいただき、直接商店街へ寄付して下さるY盛氏がすでにカウンターで杯を重ねている。

 2階の座敷へ。米M氏も合流。謎の甘いビールで乾杯した後、絶品のカワハギ造りが運ばれてきた。凄まじい量の肝である。フグの肝は食べられないので味は分からないが、魚の肝ではカワハギが私にとって最強である。アンキモより、カワハギだ。

 醤油にたっぷりと肝を溶ぎ、肝醤油に。白身をたっぷりと絡めて頬張る。……。思わず目を強くつむる。すかさず甘くない「普通の」生ビールで追いかける。笑みがこぼれる。

 隣に座るM渡アニキが、私の目の前にぐい飲み程度の小さな小鉢を置いた。お通しのようである。オクラと納豆を和えたものか。何気なく箸でつまんで口に入れた。……。うん?特有のネバネバ感がない。あれ?……。辛っ!うわっ!何だこれは!?

 私は噎せだした。汗が噴き出した。涙が毀れた。周りを見渡すと私を見てニヤニヤ笑っている。オクラと思っていた野菜は青唐辛子だった。納豆と思しき物体はモロミだった。激辛である。チビチビつまめば酒の肴やご飯の友として絶品だが、ガバッと口に入れるものではない。Y盛氏が自宅で栽培した青唐辛子を店で調理したという。

 舌のシビレが取れない。肝たっぷりのカワハギの作りを口に運んだが、全く味が分からない。すかさず生ビールで舌を冷やす。ようやく人心地つく。

 熱々の天ぷらを頬張りながら芋焼酎をロックで鯨飲していると、雑炊がたっぷりと運ばれてきた。卵がフワフワのトロトロ。これに先ほど私を轟沈させた青唐辛子モロミ和えを少し加えてみた。味が確変するのではなかろうか。

 慎重にチョンと乗せ、雑炊と絡める。啜るように口に入れる。……。正解である。思わず笑みが漏れた。ピリっと雑炊世界全体を引き締めている。思わず刮目する。

 2軒目は<空>。絶品の麦焼酎をロックでガバガバやりつつ気の効いた小鉢料理がどんどん出てくる。鯨の尾身、海胆のせ烏賊刺、鰯山椒煮……。さすがにグデングデンになってきた。オーナーのT中氏のこれまで数度鍋シメの雑炊を堪能させていただいた。T中氏流は、煮込まない。ただ汁をぶっかけるだけ。薬味もない。すべての無駄をそぎ落した極上の無垢である。

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めったに口にしない雑炊。
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2016年01月27日

第1377夜:「MOZU市」誕生【小倉(北九州)】

 MOZU市。ローマ字表記が斬新すぎる日本国内とは思えない自治体名である。

 大阪府堺市に「中百舌鳥(なかもず)」という地名があるが、そこではなく新しくMOZU市が誕生するのは福岡県北東部。北九州市あたりである。一時期ほど市町村合併は盛んではなくなったが、人口減少社会の昨今、合併が無くなることはないだろう。しかし、合併解消はありえるのだろうか。

 2015年の秋。毎月どころか毎週のように北九州市に通っている私は、北九州の台所・旦過市場再整備勉強会のため速足で魚町商店街を急いでいた。ふと違和感に気付いた。商店街の両脇にのぼりがびっしり。それだけなら珍しい光景ではないが、普通の企業広告やイベント告知ではない、おめでたい内容なのに兼呑な雰囲気が漂っている。

 早歩きを緩めて内容を確認する。「MOZU市 10・15誕生」。最初、日本国内とは思わなかった。北九州市が姉妹都市を結んでいる外国のどこかの都市のことかと考えた。理由はどうあれ、おめでたいことである。

 さらに商店街を歩いて旦過方面に向かうと、ポスターを発見した。「MOZU×北九州市 映画の街・北九州 北九州市がMOZU市になる」。写真が2枚コラージュされている。小倉城の横に、MOZU市の市長と思しきスルドイ目をしたアラフォーイケメンのアップが。選挙ポスターでは考えられぬ愁いを帯びた表情。笑顔など微塵も感じられない。

 北九州市が、MOZU市になる。対等合併から50年あまり。馴染むことなき抗争に果てに、ついに超熟年離婚(分市)することになったのか。小倉あたりがMOZU市なら、黒崎あたりは赤ウィンナー市、折尾あたりはセントマザー市、若松あたりはショコラ市になるのだろうか。

 ドラマ『MOZU』は私の15年ほど前に読んだミステリ『百舌が叫ぶ夜』が原作の連続ドラマ。東京が舞台だが、主要ロケ地は北九州市。魚町商店街あたりが爆破される冒頭シーン、魚町商店街アーケード天井(キャットウォーク)や小倉駅新幹線口エスカレーター付近でのアクションシーンに心躍った。シーズン1もシーズン2もすべて観している。

 すべての謎が明らかになる実質的なシーズン3となる『劇場版MOZU』 が11月上旬に全国公開される。MOZU市への市名変更はそのキャンペーンらしいが、一時的とはいえ北九州市をMOZU市とする行政の柔軟な対応に恐れ入る。ネーミングライツのようなものだろうか。

 劇場版公開直前。深夜TVで放映されていた過去のドラマシリーズ総集編やスピンオフ『大杉探偵事務所』などすべて録画して観賞。万全の準備で映画館に足を運んだ。

 冒頭から激しいシーンの連続。予期せぬ展開。海外のどこかで撮影したと思しきド迫力シーン。私は本編に夢中になりつつも、百舌のごとき視点で旧北九州市の痕跡を探した。……。旧北九州市、本編ではカケラも写っていなかった(と思います)。

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「MOZU市」誕生で祝賀ムード一色。

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新市長?はイケメン。
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2016年01月25日

第1376夜:萌えキャラにキュンキュン♡【大垣(岐阜)】(後編)

 凝っているのが登場人物の名前である。カタログのビジュアルは全員美男美女だが、名前、特に苗字が独特。要するに、「キラキラ」していないのだ。南若森さん、西外側さん、室本くん、奥くん、丸の内くん、墨俣くん、赤坂くん、草道島さん……。苗字がすべて大垣市内の地名から取られている。その地名出身の住民はさぞ感情移入しやすいだろう。

 全く存じ上げなかったが、全国萌えキャラフェスティバルも開催されている。ファンの間では超有名な声優さんのトークステージや公開録音もあるという。そのチラシを見る。日本中にこれだけ萌えキャラがいたのか。私の生まれ故郷で前職を過ごした神戸新長田もサブカルや萌えコスプレのメッカになりつつあるそうで、「いまいち萌えない娘」がエントリーしていた。

 宮古から花巻空港へ向かう車内で「大垣きゅん物語」のヘビーローテーション。あまりこのテの世界に免疫がなく、背中がムズムズする。

 大垣の魅力をドラマ仕立てで紹介しているのだが、聴き進むにつれ違和感を覚えた。展開が地味なのである。色恋話や三角関係といった展開が皆無。淡々と進行する。

 4話目の`バスタイム´に期待したが、水の妖精がどこからか出現しただけ。「いや~ん、エッチ!」と窓ガラスに向けて洗面器の湯をかけるベッタベタの定番シーンもない。後日プロデューサー氏からあえて色恋やエロを封印している理由もお聞きし、納得する。それにしても、声優さんという業種のプロぶりに改めて感心させられる。

 十数年前の神戸新長田時代。まちづくりにも理解を示すパチンコ屋オーナー(女性)が経営するゲーセンの一角を改装整備したライブスタジオで声優さんをイベントで招いたことがあった。どのようなルートで実現したのか分からぬが、ギャラはすべてオーナー持ちだった。

 会場には10代から20代の男性が制圧。店外まで溢れている。開場まで皆さん何故か体操座りしている。大勢のオトナがオトナしく体操座りしている光景も不気味だ。オーナー曰く「この子たちがゲーセンで少しでもお金を落としてくれたらそれでええ」。

 オーナーの思惑通り、声優ショーが始まるまでゲーセンの各機種に声優ファンたちが殺到。仲間同士、もしくは初対面も大勢いただろうが妙に意気投合している。

 「ウォーッ」とプレイヤーを取り囲むギャラリーたちが盛り上がっている。私はその様子をステージ近くで眺めながら、何か違和感を覚えた。その正体を探るべく近づいて様子を覗く。

 プレイヤーが必至にレバーを動かしつつボタンをピコピコしているが、画面とリンクしていない。違和感の正体に気付いた。お金を投入していないのだ。当たり前だが作動していないので、画面はただ広告のようなスクロールが流れるだけ。それで大盛り上がりしていたのだ。

 腰が抜けそうになった私はよろけながらオーナーに駆け寄った。オーナーは私の報告を聴き、「この子たちは純粋なんやねぇ」と嬉しそうに目を細めた。私はそんなオーナーの菩薩のごときアルカイックスマイルを見て、さらに腰を抜かしそうになった。

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めくるめく大垣きゅんちゃんの世界。
posted by machi at 06:15| Comment(0) | 岐阜県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする