2015年08月28日

第1283夜:帰れない…U【守山(滋賀)】(後編)

 列車は凄まじいスローぶり。駅到着ごとに何らかの理由で5分以上停車する。そのたびに乗客が突入。私は知らぬ間に連結部まで追いやられ、必死でミステリを読みつつ踏ん張る。ちなみにその時たまたま読んでいたのが『てるてるあした』(加納朋子 幻冬舎文庫)。佐々良シリーズ第2弾のハートウォーミングミステリだが、この状況下では皮肉なタイトルである。

 本来は30分ほどで到着するはずが1時間かけて京都駅に何とか到着。取り急ぎ改札に向かう。巨大な電光掲示板はすべて「調整中」(運休)。いったん改札を出て地下鉄に乗換え、河原町あたりから阪急で帰路に着くべきか。しかし、とても午前中帰宅に間に合いそうもない。

 ウロウロしつつ作戦を練っていると、在来線改札の長蛇の列以外に、もう一つの長蛇の列があった。新幹線切符売場である。新幹線は力強く正常運行しているという。

 神戸から京都間は新快速列車が充実し、しかも料金は新幹線の3分の1程度。この区間のみを新幹線利用したことはなかった。そもそも新幹線を使うという発想がなかった。

 私の中のフワフワしていたパズルのピースが嵌った。新幹線で新神戸まで行こう。そこからは市営地下鉄で1本だ。長蛇の列を眺めていると、いつ新幹線に乗れるや分からない。私はすかさず携帯を取り打し、ネットでエキスプレス予約。なんと15分後の座席を確保できた。

 帰路の目途が立つと、安堵感からか一気に空腹が襲ってきた。祝杯を挙げたい気分だが、時間の余裕はない。車中で駅弁をツマミに飲む軍略も一瞬頭をよぎったが、乗車時間は30分弱。しかも思いっきり混みあっているはずで、ゆっくり楽しめる保証はない。

 立ち飲み、駅弁吞みは断念し、プランCを選択した。アルコール摂取を諦め、立食い駅そばで空腹を満たす作戦である。すかさず構内<麺串>へ。券売機の前に佇む。迷った時は天ぷらそば(うどん)一択なのだが、モーニングセットなるボタンに目を吸い寄せられた。

 かけそば(またはうどん)とライス、生卵付き380円。時間は11時まで。時計確認。10時57分。普段セット物をあまり頼まぬが、昨夜中に帰れなかったからこそ、在来線で守山から途中下車を強いられたからこそ、巡り合ったモーニングセット。これも何かの御縁である。

 カウンターの陣形を確認。天かす無料入れ放題。心の中でガッツポーズする。「かけ」は少し寂しいので一気にテンション上がる。天ぷらそばを注文していたらカブってしまうところだ。台風の神様が私に垂らした蜘蛛の糸。七味だけでなく柚子七味も配備され、芸が細かい。

 30秒ほどでかけそば登場。天かすをたっぷりぶち込み「ハイカラそば」にランクアップ。柚子七味も多めに。ライスと生卵も到着。ライスにほんのり添えられた鰹節と梅干が心強い。

 そばを啜る。天かすの油が溶けコクと旨みが倍加した出汁を啜る。鰹節に醤油を垂らし、ご飯をワシワシ呑み込む。御飯が半分になった時点で生卵を投下。濃厚卵かけご飯にウットリ。

 新幹線に乗る。混みあっているとはいえ、リクライニングする座席はひたすら立ちっぱなしだった体を喜ばせる。呆気ないほどあっという間に新神戸到着。しかし、油断ならない。地下鉄が情報通り運行していることを祈りつつ、私はエスカレーターを駆け下りた。

150828モーニングセットそば@麺串(京都).jpg
魅惑のモーニング。
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2015年08月27日

第1282夜:帰れない…U【守山(滋賀)】(前編)

 台風の間隙を突いて実施した東近江八日市ミッション。遂行できたものの、当日中の帰宅が不可能になった。開始時間を遅らせた分、終了時間も遅くなり自宅までの終電に間に合わなくなったのだが、そもそも台風の影響で帰路の在来線は全面運休状態が続いている。

 早々と帰宅を断念。我が八日市入りの現地コーディネーターF間氏にお願いし、ホテルを手配していただく。東近江市内は手配困難のため、滋賀県内における我がミッションでは最も足しげく通い、知人友人も多い守山で確保。駅前のホテルである。

 F間氏は車通勤のため酒好きだがいつもノンアル。氏は守山在住かつ、折しもその日は誕生日。慰労とお祝いも兼ね、美女でなくオッサン(私)というあたりが気の毒だが、氏と守山へ。途中、我が弟子・石G氏に合流を促す。石Gを通じ、守山の鉄人・M谷氏にも接触を試みる。

 M谷氏はまちづくり界の紅白歌合戦と名高き<ギョーザ祭り>の表の首謀者(実質的人選等の権限は奥様)。氏も我が緊急守山呑み会参戦を快諾して下さったようだ。嬉しい限りである。大慌てでチェックインし、鉄人指定の焼鶏屋へ。時間は23時。ところが閉店時間だった。

 F間氏の運転で駅から少し離れた居酒屋<HIKARI屋>さんへ。台風なのに中々の盛況ぶりだ。東近江は雨が小降りになり風も弱まったが、守山に近づくにつれ激しくなった。自身の結婚披露宴に台風が直撃し、JRを完全運休させた嵐を呼ぶ男・石Gの負のパワー全開である。
 
 エクストラコールドで乾杯する。誕生日のF間氏、駅から離れたため帰路も運転せねばならずアルコールを断念。氏のお祝いと慰労のはずが、余計に負担を強いてしまう。

 めでたいのはF間氏だけでなかった。石G夫人が出産間近で、何と予定日を過ぎている。そんな時期に、しかも台風直撃の真夜中にノコノコ出かける彼の付き合いの良さと師匠へのリスペクト、新婚早々の火宅ぶりに目頭が熱くなる。まちづくり屋として大きく育っている。

 少人数呑み会は守山では久々。超多忙の鉄人、出産間近の奥さまを家に残し師匠の呑み誘いに付き合う石G氏、誕生日なのにタクシー代わりを強いられ酒が呑めなくなったF間氏。帰れない私のヒマつぶしに付き合わせてしまい申し訳ないのだが、それ以上に嬉しさも感じる。最初は生、途中からハイボールを重ねながら談笑と談論。時間はあっという間に深夜1時半。

 翌朝。雨はすっかり上がっている。曇り空だが風もない。チェックアウトし守山駅へ。ところが、改札口付近で人が茫然と溢れている。電光掲示板には上下線とも「調整中」。全く状況が分からない。駅員さんも利用客対応に必死。動いてはいるそうだが、ただし京都まで。京都以西は全く運行再開の見通しが立たないという。

 私はどうしても昼までに神戸に帰らねばならぬ。ホームで20分ほど佇んでいると、満員の電車が入線してきた。本来は加古川行き快速らしいが、京都で折り返しというアナウンス。京都まで行かねば何も始まらぬ。京都からが本当の勝負だ。私は決然と乗り込んだ。〔次夜後編〕

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翌朝の守山駅。電車動く気配なし。
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2015年08月24日

第1281夜:台風とタイ風【東近江(滋賀))】

 台風11号。西日本を直撃し、全国各地で甚大な被害をもたらした超大型台風である。「観測史上最大級」という言葉は頻発されているが、今回は文字通りだった。

 その日。大阪駅ホームは凄まじい人で溢れていた。私は大阪駅から新快速で近江八幡経由で八日市へ向かわねばならなかった。頼もしき大動脈・新快速はすべて止まっており、再開の見通しが立たない。100分遅れの一部快速がたまたま入線。とりあえず飛び乗る。

 進みだしたと思えば、すぐ止まる。牛歩のごとき遅さ。途中、自転車が抜いていく。車内放送が細かく入る。新快速再開の見通しは依然分からぬので、終点(米原)に行くなら、この列車(普通)にそのまま乗るようにとのこと。近江八幡へは何時に到着できるのだろうか。

 現地コーディネーター氏や我がクライアント氏にひたすら車内から状況をメールやり取り。ミッション中止も検討したが、私の誇りは仕事に天候を理由で穴を開けたことがないこと(他はありますが)。とりあえず向かう。19時半ごろ、何とか到着。予定より30分遅れになったが、無事ミッションを遂行できそうだ。ミッション前からすでに業務完了の気分だったが。

 会場は塚本氏が新たに6月にオープンさせたタイ料理コミュニティレストラン(たぶん)<サラームエラワン>。店名の由来は頭が3つもある象の神様が絡んでいるとお聞きしたがイマイチ覚えていない。塚本氏は燃料(ガス)屋さんだが、タイ国の半端ない大ファン。凄まじく凝った内装も器用な氏のオリジナルだ。和洋ならぬ和泰折衷という風情か。

 氏のお店を紹介した新聞記事があった。地元でも注目のマト。記事に目を通す。メイン見出しが「商店街にタイの風」。サブ見出しが「東近江に交流施設 国際結婚塚本さん夫妻」。

 氏の半端ないタイ国への激愛ぶりにこれまで圧倒されてきた。奥様がタイの方で、その日は諸事情で帰国されていたので残念ながらお会いできず。奥様が基本的に料理の腕を振るうそうだが、氏も見事なフライパン裁きをみせる。内装は様々なタイ風オブジェが飾られているが、御雛さんも飾られているあたりが、日泰融合の独特なシュール世界を醸し出している。

 レストラン機能だけでなく、様々なイベントも企画されているようだ。客同士のコミュニティも深まっているという。

 勉強会終了後のシンハービール。懐かしい。私は学生時代、卒業旅行がタイだった。首都バンコクは1泊だけだったが、ほとんどをパタヤビーチで過ごした。シンハービールを何本飲んだが分からない。その際、トムヤンクンにすっかり目覚めたことを覚えている。

 約20年ぶりのシンハービール沁みる。猛烈な台風を掻い潜って辿り着いた約束の地は、タイ風旅情を満喫できる八日市。氏が焼いて下さったグリルチキンが香ばしくてビールに合う。

 一服するために、外に出る。雨風が弱まってきた。台風の勢いよりタイ風の勢いが勝ったようだ。 

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八日市に出現したタイ。

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シンハーとチキン、最高。
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2015年08月23日

第1280夜:バケツポテト発射タイミング【大垣(岐阜)】

 <ロッテ●ア>。マ●ドほどではないが日本屈指のファストフードチェーンである。ともにめったに足を運ぶことはないが、大垣駅構内の店は喫煙ゾーンの存在が頼もしい。
 
 21時半、岐阜大垣ミッション終了。ノドの渇きが凄まじい。22時前の快速で名古屋へ。後ろ髪を引きちぎられながら帰路に着く。空腹も凄まじいが、大垣駅には駅弁がない。帰路を見越しどこかの駅で事前入手作戦もあるが、持ち歩くのも難儀だ。

 駅コンビニで缶2本とポケットバーボン捕獲。閉店間際の駅構内<ロ●テリア>で何か買おうか。ハンバーガー屋におけるビールやウィスキーの肴として、私にとってポテトフライに勝るものなし。当然、Lサイズ。これをベースに他のメニューを絡めよう。

 カウンターに置かれたメニュー表に加え、店内を見渡した。「バケツポテト」なる圧倒的存在感のPOPが視界に飛び込む。サイズはSサイズの5袋分。心が激しくざわめいた。今夜はポテトフライ一択である。5分ほど待ち、バケツを受け取り快速に乗りこむ。

 ガラガラである。横一列シートではないため、酒を比較的呑みやすいシチュエーションである。カシュっとプルトップを開け、一気に半分呑み干す。五臓六腑に沁み渡る。ぼんやり夜の車窓を眺める。名古屋までの乗車時間は30分強。酒をヤリながらバケツポテトをノンビリ平らげるには時間が足りぬが、空腹の胃がビールで刺激され、キュンキュン泣き始めた。

 間もなく岐阜駅に到着するというアナウンス。そろそろバケツポテトに手を出すか。熱々揚げたては最高。包みを空ける。フワ〜っと油で揚げられたじゃがいも独特の香ばしい香りが漂った。思わず目を細める。しかし、前の座席の女性が別の意味で目を細めて私をチラリと振り返った。思わず下を向いてしまう。恥ずかしいが、空腹の方が勝っている。

 さあ喰うぞと気合を込めたら、岐阜駅からいきなり混みだした。ポテトフライに手を伸ばそうとした私の手が止まった。さすがに不味い状況であることは、鈍感と厚顔無恥を高レベルに兼ね備えている私ですら察知できた。私は心で泣きながら、バケツポテトを再度封印した。包んでいる紙袋が湿り気を帯びている。揚げたて熱々は諦めた。

 電車は名古屋に到着。最終新幹線への乗り替えのため慌てて移動。ホーム到着と同時に新幹線入線。ガラガラかと思いきや程よく混んでいるものの、2人掛けを独占することが出来た。

 少し温くなった缶ビールをグビリした後、ポケットバーボンでパンチを入れる。バケツポテトをテーブルに設置する。……。圧倒的存在感である。さっそく手を伸ばす。……。冷めているが、嬉しく旨いオツマミである。全く減りそうにない。酒が足りなくなりそうだ。こんな時に限り、車内販売終了のアナウンスがこだまする。

 缶を一気に呑み干したので、バーボンでチビチビ。車窓さんが切符チェックに訪れた。普段通りの爽やか応対だが、一瞬ギョっとした動揺が瞳に映っていたのを私は見逃さなかった。

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Sサイズ5ヶ分の迫力。
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2015年08月22日

第1279夜:振り向けば水の都の大垣城【大垣(岐阜)】(後編)

 大垣といえば大垣城。全国的に珍しい4層の天守閣。戦災で焼失するまでは国宝だったという。昭和34年に再建され、2015年は築城480年にあたり様々な記念行事が開催中である。城下町はお堀に囲まれ渋滞を余儀なくされる地方都市が多い中、大垣は渋滞がないという。道路拡幅事業などを始め充実した都市計画をなされているようだ。

 大垣といえば「水」という声も市民(商業者)から声が上がる。「水の都」といえばヴェネチアかもしれないが、日本における水の都「水都」は大垣だ。水道水も美味しいらしい。私は日本中を飛び回るが、水道水が美味しい街はハズレなし。舟下りや湧水めぐりも街の名物。水にちなみ大垣名物「水まんじゅう」や「オオガキ珈琲」も活性化の一翼を担っている。

 オオガキ珈琲をテコ入れしたい要望を商店街若手グループ「石黒会」は有している。珈琲という漢字(当て字)を考案した方が大垣の御仁という。我が神戸も珈琲文化(喫茶・パン)を誇っているが、大垣もかなりの深度。船舶文化と日本古来の食文化が見事に融合している。

 「ちょいみせ」プロジェクトとは何か。展示販売・飲食・セミナー・パーティに使用可能な2区画のモダンに改装されたレンタルスペースである。賃料は一週間1万円から。キッチン設備のついた区画もあり、お試しチャレンジに適している。

 商店街をホタホタ散策していると、アーケードの切れ目がある。路地というより広い横道だ。「こちらです」と奥D氏が指差した。私と熊G氏はのけぞった。なんと、大垣城である。商店街の奥まった所にある日本屈指の知名度を誇る名城。何とも言えないシュールな距離感に唖然とする。氏に案内されなければ、間違いなく気づかずに素通りしていただろう。

 大垣市のマスコットゆるキャラは「おがっきぃ」。松尾芭蕉翁がモチーフという。なぜ、芭蕉翁なのか。出身地なのだろうか。「水都」に並び、大垣市を代表するキャッチフレーズが「奥の細道むすびの地」。大垣は翁の壮大な奥のほそ道紀行の終着地だったのだ。

 市役所の方の運転で<芭蕉むすびの記念館>へ。かなり立派でモダンな建物である。栃木日光から始まる奥の細道。むすびの地で読んだ翁が吟じた句が「蛤のふたみに別行秋そ」。ハマグリというあたりが天才芭蕉である。なぜハマグリなのか私にはさっぱり分からぬが、翁が愛でた如く、歴史好きには丸一日大垣探索しても飽きることなく楽しめるだろう。

 私は「奥の細道」はさっぱり詳しくないが、何度読み返したか分からぬ我がバイブルコミック『酒のほそ道』(ラズウェル細木)記念館なら何時間居ても飽きることはないだろう。

 白河、酒田…。私は仕事上、芭蕉翁ゆかりの地を訪ねることも多い。改めてその足跡の凄さに思い知らされる。21世紀の地域活性化に貢献している。しかし、まさか大垣が奥の細道の「むすび」だったとは。感慨深い気分とともに、私の全国行脚旅も終わりを告げられたような切ない気分にさせられた。

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商店街の路地を曲がると大垣城。独特すぎる立地。

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芭蕉むすびの記念館。
posted by machi at 07:02| Comment(0) | 岐阜県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする