筍を口に運ぶ。……。瑞々しさが破裂する。柔らかいのに歯ごたえが充実。1年でこの時期しかない、小さすぎても大きすぎても適さない絶妙の旬。トマトのジュワっとした甘みと酸味、ニンジンのカリコリしたタップダンスのごとき音色が心を浮つかせる。
第三の矢が放たれた。マグロかカツオの刺身だろうか。生姜が少し添えられ、軽く白ごまがまぶされている。ヅケのように仕込まれているようだ。何だろうか。「鯨のユッケ」だった。
耳を疑った。目を剥いた。これまで牛や馬などのユッケを口にしてきた。マグロのユッケもあった。鯨は初めてである。ユッケといっても、生卵が絡められているわけではない。
ウォォと呻き声を漏らしながら口に運ぶ。……。ぶっ飛んだ。鯨の臭みゼロ。純粋に昇華した旨みだけがふんわりと残り、溶けて消える。タレの主張が控えめなので素材の旨みが最大限ギリギリのバランスで屹立している。
いつの間にか極上の日本酒が空に。続いて取りだされたのは木箱に入れられた大吟醸酒「心」。シンプルかつ自信に満ち溢れたネーミングである。蔵元は久留米の山口酒造場。今度はグラスではなく、T中氏が持参したぐい飲みでヤる。
第四の矢が突き刺さった。鮮度抜群で甘み際立つ烏賊の刺身。その上にたっぷりと生海胆がトッピングされている。烏賊だけ攻めてもよし、海胆だけ抱きしめてもよし。この二つを絡ませて口に運ぶ。1+1=2ではない。1+1=10000になるのだ。
豪華絢爛な演目の雨あられ。シアワセすぎてクタクタになるという稀有な経験。大吟醸をグイグイ喉に放り込みつつ、チェイサーのように缶ビールを流し込む。すでに満腹に近い。談笑する間もなく、第5の陣形が編まれた。ここにきてまさかの刺身盛り合わせである。
白く輝く烏賊の上に蟹の身が解されている。鮪の赤身も優しいのに鮮烈。イサキ(アマダイだったかな)のお造りの桃色たるや、これぞ日本の春爛漫。美しい絵皿に並べられている、美しきジャポニズム。添えられている野菜の細工ぶりも涙腺を刺激する。
これらを目と舌で味わい尽くし、大吟醸の消費ピッチを加速させる。酔いも回ってきた。ほっと一息つきたい。そんな思いを見越してか、第6の矢が優しくふんわりと飛んできた。椀物である。湯気が嬉しい。三陸宮古から直送された「どんこ(エゾアイナメ)の味噌汁」。三陸を代表する食材を北九州屈指の包丁人が捌くという夢のコラボが実現する。〔次夜完結〕

筍の刺身。この木のまな板もプレゼントして下さった。

驚愕のセンスとバランス。鯨のユッケ。

海胆と烏賊の甘みが天空で一つに。

圧倒的鮮度と旨さの刺身軍団。