獺祭が運ばれてきた。グラスにナミナミと注がれている。鯖刺身の余韻が残っているまま、獺祭を口に含む。……。風味が倍加する。慈しむようにチビチビ呑んでも味が分からない。豪快にガブガブとノドに放り込んでこそ、酒の旨さの芯が分かるのかもしれない。
大トロが4枚も小鉢に入って出てきた。野沢菜を独特のネバリを立たせた薬味が添えられている。ワサビ醤油では大トロの脂に負けてしまうのだろう。
3種類の白身魚を用いたすりみ揚げ。熱々でボリューム満点。ふんわりなのに、歯ごたえもしっかり。甘辛いタレが全体を包み、胃も心も満足させる極上の一品に仕上がっている。
大皿に湯気を上げたカニがたっぷりと運ばれてきた。蒸したて。身が甘い。ミソたっぷり。無言でせせりつく。手も口の周りも衣類もカニの身がハネてベトベトだが、全く気にならぬ。
長崎方面の高級魚らしいアカカブの干物にも刮目。上品で淡白な旨みが濃縮。凄まじいピッチで獺祭が体内に吸収されていく。この干物だけで4合瓶は軽く呑み干してしまうだろう。
お猪口グラスにポン酢色のゼリーのごとき物体が入っている。そして、表面が動いている。白魚だった。ピチピチと跳ね踊っている。噛まずにクイっと一気飲み。絶妙の句読点である。
すでに満腹である。プレミアム生と獺祭も各数杯ずつ。十分に満喫した。この店が大流行りなのも十分に頷けた。口コミであっという間に広がり、リピーター獲得に繋がるのだろう。しかし、目の前のカセットコンロが手つかずのまま放置されたままである。
メインディッシュの乱れ打ちで終了かと思いきや、序章に過ぎなかった。K山氏が自信を持つ美しいサシが入った鹿児島牛すき焼がドカ〜ンとメガトン級の迫力で運ばれてきた。肉も野菜もたっぷり。K山氏は松吾郎氏が繰り出すメガトンコースを承知されていたようだが、松五郎童貞の我らはただただあんぐりするばかり。驚嘆の余り瞳孔も開きっぱなしである。
お店のお姐さんが懇切丁寧に焼き方をご指導下さる。焼(肉)奉行S本氏の出番到来である。満腹だが、このビジュアルを目にして心が震えぬわけがない。奉行の名裁きを待つ間、生卵を小鉢に割る。さりげないが、普通じゃない黄身の濃さと膨らみである。
生卵にチョン付けし、口に運ぶ。……。別腹である。霜降りなのにサッパリ。煮込まれた野菜の旨さに舌を巻く。タレの沁み込んだ厚揚がタマラナイ。さすがに胃が打ち止めでシメのうどんまで私はたどり着けなかったが、こだわりの絶品うどんだったかもしれない。〔次夜後編〕

大トロがたっぷり。

蒸したて(茹でたて?)のカニ。

シメが和牛すき焼。

すき焼奉行にお任せ。