2014年12月31日

第1118夜:木枯らし一番、鴨南ばん【宮古(岩手)】

 鴨南ばん。ラーメン屋の夏の冷し中華に負けずとも劣らぬ、蕎麦屋の冬の風物詩といえる。

 肉でも天ぷらでも出せぬ鶏肉、それも鴨独特の澄んだコクと深みが蕎麦と出汁の旨さを倍加させる。蕎麦屋メニューとしては高級な部類だが、店によってハッキリと優劣が出る一品だ。

 木枯らしが吹きすさび体の芯から冷え込んでくる三陸宮古の秋の昼下がり。商店街の打合せを終え、M川現地マネージャーとフラフラ歩いていると、最近蕎麦屋が末広町で新しくオープンした蕎麦屋が視界に飛び込んできた。M川氏曰く、つい最近のことだという。

 ん?蕎麦屋?宮古に限らず三陸はどこもラーメン一択のイメージが強い。宮古の街なかにも蕎麦屋はあるそうだが、私は未だ見啜。宮古駅で立喰蕎麦を啜ったことはあるが、蕎麦専門店とは珍しい。

 宮古でうどん専門店に遭遇する確率は、街なかでツチノコに出くわすに等しい低さ。宮古滞在時、普段ならラーメン一択だが、蕎麦を手繰るのも一興である。

 開店祝いの花が入口を飾っている。私まで初々しい気分になる。ガラリと戸を開け、中に入る。すぐに手打ちコーナーが見える。従業員は皆さん若い。宮古で呑み屋を営む若手経営者が開業したらしく、徐々に夜も営業延長し、アルコールも取り扱っていくという。

 小上がりに腰を落とし、壁のお品書きを見る。冷たいせいろ系と温かい蕎麦に大別されている。宮古相場では決して安くはないが、店内は早速お客で賑わっている。私の感覚として、宮古人は新しいモノ好きである。

 外はこの秋一番の冷え込み。地元人すら今日は寒いと震えるほど。神戸人の私には余計に堪える。体が芯から熱を求めている。私は迷わず「鴨南ばん」を召喚した。

 妙に旨い熱いお茶(蕎麦茶?)を啜りながら、M川氏と談笑。カウンターのお客も興味深々で店主に話しかけている。支那そばというメニューにも惹かれるが、値段が未記入。恐らくラーメンのことだろう。宮古人はラーメン好きなので、他のお客も支那そば出来ないのかと聞いている。私も気になるが、まだ準備が出来ていないらしくこれからという。

 店はわずか2日前にオープン。若い方がどんどん開業するのは喜ばしい。特に昼の飲食店が宮古は少ない印象がある。

 ブツが運ばれてきた。油膜がキラキラと表面に輝いている。鴨もたっぷりで、葱は別皿という芸の細かさ。三つ葉がアクセントで、太い葱の焼けたビジュアルも頼もしい。

 唐辛子を多めに振りかけ、まずは出汁を啜る。……。口の中いっぱいに濃厚なコクが広がる。鴨のエキスと和風出汁が絡み合う。

 続いて蕎麦を手繰る。……。油膜で蕎麦が出汁と絡み合い、実にエロチックだ。油膜のおかげで出汁が冷めない。鴨肉を頬張る。……。ジューシーで歯ごたえがあり、噛めば噛むほど旨みが湧き出る。手打ち蕎麦の香りも素晴らしい。夢中で熊啜し、あっという間に平らげた。

 鴨南ばんは日本酒、それも熱燗に好適だ。この店がまだ酒を扱っていなくて良かった。もし扱っていても、残念ながら仕事で呑めなかったけど。昼のカレー南ばんも気になるが、夜に熱燗をヤリながら天ざるや鴨なんをヤリたい。宮古滞在の楽しみがさらに一つ増えた。

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繊細と野趣が同居した絶妙な鴨南ばん。

(付記)
このバカブログをいつもご笑覧いただいております全宇宙30名ほどの呑んだくれの皆々様、2014年もご笑覧いただき誠にありがとうございました。本年最後は、年越しそばっぽいネタに。2010年6月に開始し、ヒマに任せて徒然と書き散らしている間に、いつの間にやら1000夜超え。いまだアップできていない4年前に書いた古すぎる小ネタも多数あり、死蔵ストックは増える一方。いつまで続けるか私にも分かりませんが、もう少しだけお付き合いお付き合いくださいませ。皆さまにとってステキな1年になりますように。2015年もどうぞ御贔屓に!
posted by machi at 09:21| Comment(0) | 岩手県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年12月29日

第1117夜:剃ってしまえ!【宮古(岩手)】

 シェービングムース。シェーバーではなく安全カミソリを愛用し続けている私には欠かせないアイテムである。出張ポーチに携帯サイズを常備している。

 ホテルによってはシェービングムースを大浴場やユニットバスに備え付けてくれているところもあり、それだけでかなりポイント高い。石鹸やボディソープでは切れ味が悪く、たまに血がにじみ出ることがある。

 大津波後の最初の長期滞在時、津波被害が比較的軽微で営業再開した店舗の中から、一番最初に購入したアイテムがスリッパ。「あづま」と大きく書いている。なぜなら居酒屋では店のトイレ用スリッパと間違えられるため、大きく油性マジックで記している。

 T字剃刀と携帯洗剤は持参していたが、次に購入したものが髭剃りムースである。長期滞在なので携帯サイズではなく、通常サイズ。どの店で買ったのか全く覚えていないが、見たことのないデザイン。数あった種類の中で「剃ってしまえ!」というタフで力強すぎる商品名に惹かれてレジに向かったと推測される。

 2011年5月に宮古入りして以来、200泊ほど中央通商店街の<宮古セントラルホテル熊安>さんにお世話になり続けている。T字剃刀、シェービングムース、体洗い用繊維タオル、スリッパ、携帯洗剤などを確か100均で購入したカバンに入れ、ホテルで3年以上預かって下さっている。部屋にチェックインすると、いつも常備カバンが部屋に届けられている。

 ある木枯らし惹きすさぶ朝の宮古。ユニットバスに向かい、いつもの儀式のごとく歯を磨いて髭を剃ろうとシェービングムースのボタンをプッシュする。いつものシュボッ、のちムア〜っとした泡が掌に乗らず、シュボボボボ〜というガス交じりの情けない音と空気のみが弾ける。ほんの少しだけ白い液体状のものが噴出したが、とても髭を剃れる分量ではない。

 3年半を経過し、ついに一缶使い切ったようだ。それも、一つのホテルで。私は毎朝髭を剃る。1缶でどれほどもつのか計ったことはないが、すぐに無くなるものではない。

 今まで「剃ってしまえ!」という商品名しか気にとめていなかったが、しみじみと缶のラベルを読み混む。200g入りで、<ヌーベルビバ>さんというメーカーだった。

 宮古滞在時、私と剃刀の朝の真剣勝負の円滑材として、タッチ風にいくと南ちゃん的な役割を果たしてくれていた。毎朝「剃ってしまえ!」というロゴを見るたびに「了解です!」と心の中で力強く応じていた気がする。

 これから、どれだけの頻度で宮古を訪れることができるかは、さっぱり分からない。少なくとも、長期滞在することはないだろう。携帯ムースでなく、普通サイズを捕獲しようか。しかし、使い切れるだろうか。ムース缶一つをキッカケに色々なことを考えさせられる感慨深い朝になった。

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「剃ってしまえ!」
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2014年12月28日

第1116夜:第3回おりおバル【折尾(北九州)】

 第3回おりおバル。3枚つづりで2000円。同じ店でチケット3枚は使用不可。72店舗が参加し2014年10月21日から5日間開催。1000枚のチケットが完売という人気ぶりだ。折尾地区はかなり広域のため、ある程度のゾーン分けが施されている。

 おりおバル2日目、21時。折尾商連事務所で神戸岡本商店街H谷姐さん御講演の後、15人で一斉に繰り出した。果たして15人が一度に座れる店などあるのだろうか。そこは抜け目なき気配りのK原事務局長。事前に予約するという芸の細かさだ。

 まずは商連メンバーで私も旧知のF崎氏がオーナーの駅西エリア<public space おりを村>さん。学園通沿いだが思いっきり奥まったところに位置する。イチゲン到達は困難だ。

 席に陣取り、飲み物を注文。私はビールに。運ばれてきたブツを見て驚嘆。なんと瓶ビールで、しかも1人1本という剛毅さだ。私たちのテーブルはグラスに注がずにラッパ呑みを敢行。カッとくる炭酸の刺激がタフでワイルドだ。

 バルフードが運ばれてきた。チーズリゾットコロッケ・合鴨スモーク・モッツァレラ&トマト。お洒落と気合の3種盛である。瓶は生と比べて減りが緩やかなので、実に良い塩梅。

 もう1枚チケットを使う。今度は大きなグラスに溢れるほどの日本酒。2合以上ありそうだ。続いてのバルフードは、スパゲティ・おから・揚げ餃子。日本酒とナポリタンの相性の良さに刮目する。チビチビ呑まず、豪快にノドに放り込む。夢心地である。

 バルチケット3枚目(2店舗目)は駅東エリアのバー<TORAMARU>さん。リニューアルしたらしくギリシャ風の内装でテーブル席が。この店へも15人ほどで突撃。どの飲み物も銘柄もOKという心強さ。意地汚い私は高そうなでラフロイグをロックで。このバーはとにかく安い。以前この店にてグデングデンで記憶を無くしたこともある。

 バルフードはクリームチーズ・生ハム・燻製・チョコレート。このセットとラフロイグでチケット1枚(700円弱)とは恐れ入る。

 店を出た。23時。折尾にホテルがなく、タクシーで隣町の黒崎へチェックイン。御年●●歳とは思えぬパワーのH谷姐さんと24時間昼夜食堂<エビス屋>さんへ。黒崎の呑んだくれトリオ(パンチU野氏・商店街F江理事長・商工会議所M氏)と合流。レモンチューハイを夜中●時までガバガバしながら、アテをつまむ。はしご酒でなく、じっくりと腰を据えた。

 折尾地区はかなり広域なのではしご酒は難しいのではないかと危惧していたが、全くの杞憂。年1回の開催らしいが、2回やっても良さそうだ。その翌週は隣町の黒崎で「はしご酒大会」が開催されるという。北九州人の肝臓は私の知る限り、日本最強かもしれない。

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折尾バル―チケット@:「おりを村」。瓶ビールが豪快。

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ガツンと瓶ごとラッパ呑み乾杯。

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折尾バル―チケットA:<おりを村>。日本酒なみなみ。

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BAR<TORAMARU>にて。

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折尾バル―チケットB:<TORAMARU>。ドリンクは選び放題。

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シメは夜中12時から隣町の黒崎で。
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2014年12月27日

第1115夜:美しい街へ【折尾(北九州)】

 美しい街岡本協議会。兵庫県最強の高ブランドイメージが巷間に知れ渡る商店街&住宅地を有する神戸・岡本地区。その素晴らしきイメージの守り神として活躍する協議会の会長を長年務めるのが、私の前職・神戸新長田時代からたいへんお世話になっているH谷姐さんである。

 姐さんは泣くオヤジも黙る日本初の商店街振興組合の女性理事長。阪神大震災などの激動期の舵を取り、現在は商店街活動の最前線から一線を退かれているが、美しい街・岡本を守り発展させつづけるべく美観景観保護活動に尽力を注がれている。岡本のみならず神戸屈指の人気雑貨店「ハンドインハンド」のオーナーとして、経営者としても超一流だ。

 神戸岡本地区と同じく学生街であり、アーケードがなく商店が密集しているようで点在している北九州市折尾地区。現在駅舎建替に伴う高架工事、道路拡幅、区画整理が進められている。折尾商業活性化を統べる協同組合折尾商連さんの招聘により、敬愛する姉御肌の橋T姐さんの御講演が実現。私はカバン持ち兼助手として、姐さんと小倉で合流し折尾に向かった。

 岡本は神戸市内最東端で、折尾は北九市内最西端。このあたりも似通っている。小雨降る暮れなずむ夕方、初の北九州入りという姐さんは折尾地区を視察。19時より姐さんの御講演スタート。普段の勉強会や会合の倍以上の人数が集まった。

 石畳の街・岡本。超高級住宅街でもあり、家賃も凄まじい高さだが空店舗が出来ても瞬殺で埋まる。順番待ちであるそうだ。賃料は値上がり一途で、しかも高すぎて大手チェーンか投資目的が増えたらしい。敷金相場を姐さんが発した時、会場から悲鳴に近いどよめきが起きた。

 昭和55年に振興組合が設立された岡本商店街は現在約400店舗が集積。洋菓子店や喫茶店も多いが、スーパーを除き生鮮食品を取り扱う店はないそうだ。組合員加入活動にも知恵と知略が詰まっている。なぜ、岡本商店街に出店するのか。それは、岡本商店街が魅力満点だから。岡本で商売することイコール組合加入のメリットである。私も会場も激しく首肯する。

 37年前に雑貨屋を始めた姐さん。学生が入りやすい店は年配も入りやすいそうだ。45歳で理事長就任。姐さんの時代に一般的な売り出しは廃止したらしい。

 現在の姐さんの活動母体である美しい街岡本協議会は商店街や行政と連携しながら様々なルールを策定。協議会の承諾なしには看板ひとつ付け替えることができないという力強さ。協議会の季刊報で周知活動にも余念がない。CGF作戦(Clean・Green・Flower)を現在展開中という。

 小柄だが姉御肌の姐さん。御年●●歳とは思えぬ圧倒的な存在感と軽妙洒脱な話術、場の空気を読み裁く機転で会場を魅了。あっという間の1時間。全く退屈しない。質問も飛び交う。姐さんは丁寧に誠実にお答えしていく。時間が足りないほどの盛り上がりだ。

 美しい街へ。岡本のDNAが折尾にも受け継がれ、独自の活性化を遂げていただきたい。

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折尾の原風景。

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H谷姐さんを招いた講演会。

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熱弁する橋T姐さん。
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2014年12月26日

第1114夜:ブラウンラーメンへの遠き道【入善(富山)】

 名水のまち。それも、海洋深層水のまち。富山県入善町の観光案内パンフレットに記されたキャッチフレーズである。富山駅より東へ電車で1時間弱。黒部市のお隣の自然豊かな町である。豊富な湧水のためか、水道水も名水のまちに恥じぬ旨さだ。日本一大きいジャンボスイカも名産であるという。ゆるキャラもスイカがモチーフだ。

 ある秋の昼下がり。滋賀県守山市から特急や普通列車を乗り継いで入善駅に到着。商工会F田氏と合流し、市に中心市街地や郊外を車でご案内いただく。ロードサイド沿いは大型店が林立しているものの、実にコンパクトにまとまっている。

 `ホテル風料理旅館´という独特のキャッチフレーズを有する旅館にチェックイン。私は和室を選択。清潔で広々としており、パソコンを叩いていると文士気分を少し味わえる。

 売り出し中の入善名物は「ブラウンラーメン」。海老味噌仕立てであるという。富山県は富山市の「富山ブラック」が有名だが、県内各地で「色」をテーマに舌ホワイトやレッドやグリーンラーメンが街おこしの起爆剤として弾けているという。

 ブラウンラーメンマップを読み混む。町内十数か所で啜れるようだ。土産として商品化されており、製造元<善商>さんは2009年、商工会青年部設立50周年記念として設立されたらしい。富山県知事賞受賞の実力だ。実に楽しみだったが、私は会議や勉強会前に何か腹に入れ宇と集中力が滅失するので、じっと我慢を重ねた。

 入善町の商業者対象の商人塾が終わり、メンバーの一人N口氏がオーナーの<京之輔>さんで懇親会。海の幸が絶品である。今朝仕入れた(釣った?)アオリイカの半日干し?の半端ない旨さに目を剥く。地酒立山を熱燗で鯨飲。入善のオトコたちはド酒呑み揃いだ。

 2次会に流れようとしたら、半分眠られていた商工会会長様が移動せずここで呑もうとおっしゃる。さらに杯を重ね続けた。

 24時を大きく回り、商工会F田氏と商人塾コーディネーターK澤先生とブラウンラーメンを啜るべく夜の街を鮫歩したが、土砂降りの雨ということもあってかどこも閉まっている。

 無念を堪えつつスナックに飛び込む。お店も閉店間際で、ママに急かされながら少しだけ飲ませて頂く。コーディネーターのK澤先生は何と大学の寮の9年先輩だった。この業界に入って15年。大学の同窓と会うことはあっても、寮生は初めて。独特の想い出話に華が咲く。

 外は変わらずに土砂降り。日本酒の酔いが気持ちよい。フラフラ歩いて旅館に戻ろうとすると、道を間違えて何故か墓地の前に。ブラウンラーメンどころか旅館への道も果てしない。

 後日、商工会F田氏がブラウンラーメンを送って下さった。早速試す。黒部川扇状地の伏流水で地元産味噌がベースの海老味噌仕立てで、少しピリ辛という。入善沖の海洋深層水で仕込んだ中太麺らしい。

 スープをひと口。……。まさに海洋深層水的な深さ。タフだけど繊細な海老の旨みと香りが鼻孔をタップする。スープが絡まるちぢれ麺のコシも抜群かつ、食感もツルツル。汗が染み出る。袋麺とは思えぬ本格派。本場・入善で啜ればさらに凄まじいのだろう。神戸でも買えるカップ麺の全国展開に期待したい。

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入善町の中心市街地。

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超本格。入善みそブラウンラーメン(2食入)。
posted by machi at 07:54| Comment(0) | 富山県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする