肉でも天ぷらでも出せぬ鶏肉、それも鴨独特の澄んだコクと深みが蕎麦と出汁の旨さを倍加させる。蕎麦屋メニューとしては高級な部類だが、店によってハッキリと優劣が出る一品だ。
木枯らしが吹きすさび体の芯から冷え込んでくる三陸宮古の秋の昼下がり。商店街の打合せを終え、M川現地マネージャーとフラフラ歩いていると、最近蕎麦屋が末広町で新しくオープンした蕎麦屋が視界に飛び込んできた。M川氏曰く、つい最近のことだという。
ん?蕎麦屋?宮古に限らず三陸はどこもラーメン一択のイメージが強い。宮古の街なかにも蕎麦屋はあるそうだが、私は未だ見啜。宮古駅で立喰蕎麦を啜ったことはあるが、蕎麦専門店とは珍しい。
宮古でうどん専門店に遭遇する確率は、街なかでツチノコに出くわすに等しい低さ。宮古滞在時、普段ならラーメン一択だが、蕎麦を手繰るのも一興である。
開店祝いの花が入口を飾っている。私まで初々しい気分になる。ガラリと戸を開け、中に入る。すぐに手打ちコーナーが見える。従業員は皆さん若い。宮古で呑み屋を営む若手経営者が開業したらしく、徐々に夜も営業延長し、アルコールも取り扱っていくという。
小上がりに腰を落とし、壁のお品書きを見る。冷たいせいろ系と温かい蕎麦に大別されている。宮古相場では決して安くはないが、店内は早速お客で賑わっている。私の感覚として、宮古人は新しいモノ好きである。
外はこの秋一番の冷え込み。地元人すら今日は寒いと震えるほど。神戸人の私には余計に堪える。体が芯から熱を求めている。私は迷わず「鴨南ばん」を召喚した。
妙に旨い熱いお茶(蕎麦茶?)を啜りながら、M川氏と談笑。カウンターのお客も興味深々で店主に話しかけている。支那そばというメニューにも惹かれるが、値段が未記入。恐らくラーメンのことだろう。宮古人はラーメン好きなので、他のお客も支那そば出来ないのかと聞いている。私も気になるが、まだ準備が出来ていないらしくこれからという。
店はわずか2日前にオープン。若い方がどんどん開業するのは喜ばしい。特に昼の飲食店が宮古は少ない印象がある。
ブツが運ばれてきた。油膜がキラキラと表面に輝いている。鴨もたっぷりで、葱は別皿という芸の細かさ。三つ葉がアクセントで、太い葱の焼けたビジュアルも頼もしい。
唐辛子を多めに振りかけ、まずは出汁を啜る。……。口の中いっぱいに濃厚なコクが広がる。鴨のエキスと和風出汁が絡み合う。
続いて蕎麦を手繰る。……。油膜で蕎麦が出汁と絡み合い、実にエロチックだ。油膜のおかげで出汁が冷めない。鴨肉を頬張る。……。ジューシーで歯ごたえがあり、噛めば噛むほど旨みが湧き出る。手打ち蕎麦の香りも素晴らしい。夢中で熊啜し、あっという間に平らげた。
鴨南ばんは日本酒、それも熱燗に好適だ。この店がまだ酒を扱っていなくて良かった。もし扱っていても、残念ながら仕事で呑めなかったけど。昼のカレー南ばんも気になるが、夜に熱燗をヤリながら天ざるや鴨なんをヤリたい。宮古滞在の楽しみがさらに一つ増えた。

繊細と野趣が同居した絶妙な鴨南ばん。
(付記)
このバカブログをいつもご笑覧いただいております全宇宙30名ほどの呑んだくれの皆々様、2014年もご笑覧いただき誠にありがとうございました。本年最後は、年越しそばっぽいネタに。2010年6月に開始し、ヒマに任せて徒然と書き散らしている間に、いつの間にやら1000夜超え。いまだアップできていない4年前に書いた古すぎる小ネタも多数あり、死蔵ストックは増える一方。いつまで続けるか私にも分かりませんが、もう少しだけお付き合いお付き合いくださいませ。皆さまにとってステキな1年になりますように。2015年もどうぞ御贔屓に!