私はこの15年ほど、住所より長い文章を書いた記憶がない。ほとんどパソコンで、書くより打つことが圧倒的に多くなった。ただでさえ読めない字がますます悪筆に。普段は特に困らないが、冠婚葬祭時の芳名記帳など、達筆の横で赤面してしまいそうになる。
まちゼミでの万年筆事例を何度となく拝聴し、以前から興味が沸いていた。ただ、かなりの高額であることは容易に推測できる。一人なら尻込みしそうなので、愛知岡崎まちづくり幕府の側用人・Yうみ嬢に同行していただく。
店内は宝石箱のように煌めいている。万年筆以外にも文具好きのココロをくすぐる逸品ばかり。ハンズが好きな人なら一日居ても飽きないだろう。お店の女将さん(GM)に懇切丁寧にご説明いただく。10種類ほど試し書きさせていただく。様々なペン先、インクの色。太さと細さ。書き味が全く異なる。店内は1000本の万年筆、300種類のインクが常備されているという。
値段も無限。1万円程度から蒔絵のごとく煌びやかな装飾を施された逸品もショーケースにある。長考し、私は最安値と思しき中細のFM(よく分からぬ)を選択。私は筆圧が強いので疲れやすいが、書き慣れると力を入れずに滑らすように使いこなせるという。保証書付の文具購入は初めてだ。妙に緊張する。ポイントカードや割引券など特典も豊富だ。
昔はジッポーも愛用していたが、呑み屋で泥酔するので必ず無くす。傘など同じものを3回使った記憶がない。万年筆も内ポケットからさっと出してサラサラ書くと格好いいが、呑み屋でそんなことして見せびらかしたら確実に無くしそうだ。
まちゼミの魅力は店のファンになり、この店から買いたいと思うことだろう。個人的には高額商品や高額サービスほどまちゼミと相性は良さそうだ。十数年愛読している雑誌『商業界』編集長様も取材に来られていた。名刺交換させていただく。光栄至極である。
東岡崎から名古屋へ。会議中に弁当を頂いたが、私は空腹でないと集中力が切れるのでキャンセルしていた。時間は夕方。空腹である。久々の名古屋。当初は贅沢にひつまぶしで地酒プランだったが、思わぬ嬉しい散財で名古屋手羽先界2強の一角<風来坊>で生ビールに。
注文を待つ間、万年筆を取り出した。何かに書きたくてたまらない。カウンターで一人、財布から何かのレシートを取り出す。裏の白地に自分の名前を漢字やひらがなで試し書きする。
心なしか悪筆が改善された気がする。1本の万年筆が男のグレードを上げてくれるかもしれない。ただし、隣のカップルや店員にとっては、居酒屋のカウンターで自分の名前を一人で書いてニヤニヤしているヘンなオヤジにしか見えなかっただろうけど。

嬉しくて 万年筆で なぐり書き