2012年05月31日

第489夜:焼鯖一筋100万枚【博多(福岡)】(後編)

 焼酎の湯割に切り替えた。鯖をむしり、たこの食感を楽しみ、ゴマサバでとろける。焼酎を干すピッチが無限大に加速していく。

 鯖メニューは他にも豊富だ。味噌煮、煮付け、南蛮揚…。他にもリーズナブルで酒呑みの心を深く理解している定番一品メニューが揃っている。鯖は九州近海物で、店主がこだわりぬいた仕入れを続けている。

 このとんでもなく絶品の「鯖の一枚焼き」がメインの昼定食が大人気だそうだ。若店主が私を厨房に招いた。何かな、と足を運んだ。若店主から日付ごとに数字が書き込まれたカレンダーを特別に見せていただいた。そこには、3ケタの数字が書き込まれている。

 この数字は、昼定食において焼いた鯖の枚数であるそうだ。どれも3ケタ越えだ。店内は4人用テーブルが4卓ほど、カウンターが10席程度。30人弱で満席と見受けられる。それが、昼定食だけで150人は優に訪れている。それを見越し、どんどん鯖を焼き続けるので、極めて客回転も良いという。

 活水だこ、ゴマサバ、焼鯖を堪能した。せっかくなので、後1品ぐらい注文してシメとしたい。この焼鯖で熱々ご飯を食べてみたい甘く危険な誘惑に駆られたが、夜に米粒を食べる習慣のない私は、メシより酒を優先させた。この至福の一時をもう少し楽しみたい。

 私の最後の注文は、「辛子メンタイ出し巻き」である。辛子明太子は、誰もが認知する福岡の定番。明太子だけで呑むのも良いが、シメにならない。ここで、出し巻きなのだ。出し巻き玉子のフワリとした食感とボリュームが、シメに相応しいように思えた。

 辛子メンタイ出し巻きが出てきた。明太子を2本は使っているのではないか。たまに見かける明太子入出し巻きは、焼きあがった出し巻きに切れ目を入れ、そこにほぐした明太子を後から挟むというものだ。

 私の眼前にある一品は、ほぐさない明太子の断面がそのまま見える。美しい。明太子系は加熱しすぎると白っぽく固まってしまう。鮮烈な赤が保たれている。

 口に運ぶ。玉子の旨みが濃厚。そして、明太子は生だが温かい。さすが本場の明太子、しびれる旨さだ。明太子だけを箸でつまみ、焼酎の肴としても楽しめる。

 私はひたすら芋焼酎湯割の杯を重ねた。熟女店員が「ほんとピッチが早かとね〜」と声を掛けてくれるほどのハイペースだ。しばらくして私はノドが渇き、体が熱くなった。ここで爽快に生ビールを注文。一気にゴキュゴキュ放り込んだ。風呂上がりのビールに通じる爽快さだ。

 極めて珍しい鯖料理専門店。200万枚が目標だそうである。次回は、ぜひ満月でない夜に訪れたい。満月と鯖の関係は、何とも不思議でロマンを感じる。福岡の居酒屋カウンターで、地球の、宇宙の神秘に包まれた。

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ボリュームある「辛子メンタイ出し巻き」

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2012年05月30日

第488夜:焼鯖一筋100万枚【博多(福岡)】(中編)

 私も普段なら甘味のない定番醤油を好むが、九州で地魚を味わうときは、なぜか甘口醤油が合うように感じる。郷に入らば郷に従え。訪れた街の習慣に合わせることで、微妙な真実と奥行き、空気をつかむことができる。

 鯖の一枚焼きが出てきた。…。私は目を剥いた。圧倒的な迫力である。巨大な半身がこんがりと焦げ、甘味を含んだ焦げた脂の香ばしい香りが漂ってくる。

 醤油をかける。ビュシビュシ音を立て、皮が弾ける。どこから攻めるか迷うほどだ。箸を突き刺す。プシッと皮がはがれ、美しくほっこりした白身が見えた。

 私は口に運んだ。……。ぶっ飛んだ。一人なので小さな声だったが「ウォッ」と私の口から呻きが漏れた。私の頭頂から肛門まで、背骨に沿って玄海灘の荒波が一気に注ぎこまれた。鯖の一枚焼、意識が福岡ヤフードームの天井を突き抜けるほどの大ホームランだ。

 よほど暇そうならともかく、私は滅多にカウンターで自分から店主に声をかけない。特に目の回る忙しさの人物にはなおさらだ。そんな自分自身に課したルールを破り、2代目と思しき若店主に「何でこんなに旨いんですか」と思わず聞いてしまった。聞いたというより、声が無意識に漏れた感覚だ。

 思わず声を掛けてしまい赤面した私に、若店主は手を止め、首を横に振りながら
「本当ですかぁ?いやぁ、今日ぜぇ〜んぜん、ダメとです!」

 店内に響き渡る大声だ。箸と口を動かす私の動きが止まった。まわりの客の会話が途切れた。若店主は何をダメと言っているのだろうか。私の振る舞いにNGを出しているのか、それとも若店主のテンションが全く上がらず、気分がダメな男性の日、ということだろうか。

 理解できず硬直した私に、
「満月なんで、ホントにダメですねぇ」
私はますます混乱した。満月?

 話を交すうちに、ようやく理解できた。何故だか店主も分からないらしいが、満月の日は鯖が全く獲れないそうである。獲れないと分かっているので、漁師も満月は船を出さないらしい。よって本日提供している鯖は、最もダメで美味しくないということを、力説された。

 あまりの旨さに意識を失いそうになった私が、40年近く食べ続けていた鯖は何だったのか。鯖と思いこんでいた別の魚類だったのか。

 更なる疑問を、私はぶつけた。本日のおススメメニューにて、シメサバとゴマサバが割引されている。豊漁だったから安く仕入れたからではないのか。

「いやぁ、これはですね、いい鯖が手に入らなかったので、普段通りにお会計をいただくわけにはいかないんですよ。普段の鯖なら、自信を持って、値段を下げたりしませんがね」

 何というこだわり、自信、客への思いやり。これぞプロの仕事、心意気である。鯖の味に負けないほどの感動が、私を貫いた。〔次夜後編〕

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必殺悶絶感涙昇天、「鯖の一枚焼き」in<真>

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2012年05月29日

第487夜:焼鯖一筋100万枚【博多(福岡)】(前編)

 博多名物うまかもん通り。九州最大の大商業地・天神地区のド中心からほんの少し中州よりにある、ホテル西鉄インの横にある細い片側路地である。その空間に、魅力あふれるお店が10店舗ほど密集している。

 その中の一軒に、私は目を奪われた。店先に、大きなPOPが貼られている。そこには「鯖ひとすじ40年 おかげさまで100万枚突破しました」と書かれている。

 さらに読み込むと、博多名物「鯖の一枚焼き」なる生唾が沸くメニューを100万枚焼き続け、お客に提供してきたそうだ。私は吸い寄せられるように、<鯖専門店 真(まこと)>の暖簾を潜った。店内は八分の入りといったところ。みなさん静かに楽しんでいる。

 私はカウンターに腰を落ち着け、生ビールを呑み、お通しの(たぶん)キビナゴの唐揚をつまみながら、本日のおススメメニューを見た。

 サービス品として、シメサバとゴマサバが通常700円のところ500円だった。違いはあれど、シメサバほぼ全国で味わる定番メニュー。ここは福岡、名物(らしい)「ゴマサバ」を注文。

 私が座ったカウンターの目の前は、寿司屋でおなじみに冷蔵ケースがある。大きめの生たこが見え、実に旨そうだ。博多名物ヤリイカの刺身と迷ったが、「活水だこ」の刺身を選択。そして、この店の定番中の定番「鯖の一枚焼き」を頼んだ。

 たこの刺身は、ボイルせずに生で味わうことを私は最も好む。加熱した方が甘味と風味が増すというボイル派が多数だが、あの淡泊で淡麗で上品な味は、生でしか味わえない。

 大きめの切り身を口に運ぶ。モッチリと口の中で吸いついてくる食感がセクシーだ。なかなか噛みきれないところも、いかにも生だこ感があってよい。

 札幌・ススキノで私が足を運ぶ海鮮居酒屋では、生だこのしゃぶしゃぶがある。生だこをほんの少し、時間にして1秒ちょっと、湯の中で二振りする。表面がさっと白くなり、わずかだけ縮む。しかし、中は生のまま。これをポン酢にチョンと付け、味わう。たこの最も旨い食べ方だと、私は自信を持つ。

 ゴマサバが出てきた。見るからに鮮度が良さそうなサバにスリごまがタップリとかけられている。すでに醤油で味づけされており、そのまま食べるそうだ。

 まずは一切れ頬張った。何という新鮮、何という歯ごたえ。ゴマの風味が鯖特有のクセを消し、旨みだけを残している。

 水だこの刺身もゴマサバも、たっぷりとした量だ。九州の醤油はかなり甘口で、特に関西圏の人間には違和感がある。店によっては、関西風(関西人にとっては極めて定番)の醤油と2種類備えている店がほとんどだ。〔次夜中編〕

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絶品「ゴマサバ」

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2012年05月28日

第486夜:うなぎは神の使者【三島(静岡)】

 三島うなぎ。「三島ブランド」に認定されている三島最強のA級グルメである。静岡県三島市がうなぎの街とは存じ上げなかった。

 三島うなぎの旨さの秘密は、富士山の伏流水にあるという。この伏流水でうなぎを1週間ほどさらすことで、栄養素であるたんぱく質を減じることなく生臭さと泥臭さ、余分な脂肪を燃焼させることができるそうだ。三島のうなぎ屋では、富士山の伏流水で1週間ほど餌なしでさらし、腹に溜まった餌などが吐き出させるらしい。

 ほんの150年ほど前まで、三島でうなぎを食べる習慣はなかったそうだ。江戸時代より、三嶋大社内の神池には多くのうなぎが生息し、なぜか三嶋大明神の使者として崇められてきたらしい。ゆえに長らく捕獲は厳禁されてきた。また、三島のうなぎを捕まえて食べることなど最大のタブーで、三嶋大明神の神罰が当たるとされ、恐れ敬われてきたという。

 うなぎにとって受難の始まりは、明治維新である。長州藩の兵士たちが三島に宿泊した際、うなぎを食べるとバチが当たるなどの言い伝えなど露知らず、ノリノリで捕って食べてしまう。それを見ていた三島の人々は何の天罰も下らないことを知り、自分らも食べるようになったそうだ。何とも言えない複雑な後味のエピソードである。

 三島市内に富士山麓の湧水のごとくコンコンと密集するうなぎ専門店。同じうなぎでも、神の使いと崇められた三嶋大社のより近いうなぎの方が、霊験豊かな感じがする。私は三嶋大社すぐ横の<上うなぎ 丸平>の暖簾を潜った。

 昼のサービスランチメニューとして激安の「うな重」がある。すかさず注文すると、サービスメニューなので三島うなぎではない、それでも良いかと店員さんが正直におっしゃる。良くないので、いろいろ楽しめそうな「三嶋三昧」なるセットメニューと熱燗を注文した。

 熱燗をほっこり楽しみ、観光案内所で入手した「うなぎグルメガイド ザ・うなぎ横町」を熟読していると、大きな盆に載せられた「三嶋三昧」が運ばれてきた。

 私は目を見張った。3種類のミニうな丼系に、複数の小鉢が付いている。かなりのボリュームだ。デザートまで付いている。何から手をつけようか。全体を俯瞰し、作戦を練った。

 豚肉と野菜の煮付と、「ミニうな重」の蒲焼をチビチビと肴に酒を呑む。さすがの実力だ。蒲焼を食べつくした後のタレ付きメシに、小鉢の温泉玉子をぶっかけて下品にかきこんだ。旨い。

 「ミニうなとろ丼」は、ねばり豊かなとろろの上に、カットされた蒲焼が載せられている。「ミニうな茶漬」は特製の出し汁をぶっかけて啜る。

 食べ終えた。胃がはち切れそうだ。うなぎをオカズにご飯を3杯以上食べたことになる。私も1週間ほど何も喰わず、三島うなぎのように余分な脂肪を落とさねばならないようだ。

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「三島三昧」
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2012年05月26日

第485夜:せせらぎとコロッケ【三島(静岡)】(後編)

 「みしまコロッケ」の定義は3点あるそうだ。

一.箱根西麓で取れた三島馬鈴薯(メークイン)を100%使用
二.中に入れる具や形は各店のオリジナル
三.みしまコロッケの会に認定された店舗のみで発売

 頬張った熱々のコロッケは、じゃがいもの味が濃密でシンプル。食べ飽きない味である。マップによると、本格洋食になったり、鰻などユニークな具材が加えられたりと豊かである。

 富士山の伏流水を源流とした源兵衛川の中を歩く。川の中に敷石が敷かれ、水上散策できる。川が美しく、せせらぎが風情たっぷりで、とにかく景観が素晴らしい。市内の至る所で極上のせせらぎ散策を楽しむことができる。

 富士山の雪解け水が溶岩の中を延々と流れ、三島市内のいたるところで湧き出し、水の都を形成している。天気の良い日は、街なかの至る所で富士山を仰ぎ見ることができる。優秀観光地づくり賞金賞、都市景観大賞美しいまちなみ大賞を受賞するなど、日本屈指の景観都市なのだ。初夏にはホタルが舞うそうだ。

 若山牧水氏、正岡子規氏ら三島ゆかりの文豪10人の文学碑が川沿いに並ぶ「水辺の文学碑」がオトナの落ち着きを感じさせる。春には桜が至る所で咲き乱れるそうだ。

 三島駅を起点とし、市内中心部に伊豆箱根鉄道が走り、三島広小路駅周辺に商店が連なっている。商店街を歩くと、程なくして伊豆一の宮として崇敬を集める<三嶋大社>に着く。

 伊豆に流された源頼朝氏が、源氏再興の志を胸に秘めて過ごしたらしい三島。頼朝氏が挙兵の際に、三嶋大社にて百日詣の祈願を寄せ、緒戦に勝利したことで著名だそうだ。三島市内には頼朝氏ゆかりの史跡が多い。平家びいきの神戸っ子である私は、少し複雑な気分だ。

 三嶋大社鳥居の前のコロッケスタンドで、みしまコロッケを購入。コロッケ最強の友はビールだが、静岡らしく緑茶缶チューハイを選択した。

 三嶋大社の境内を散策しながら、ガブリと齧る。箱根西麓産のメークインが濃厚だ。じゃがいものホクホクした旨みに油が絡んで実に旨い。さっぱり爽やかな緑茶チューハイが、コロッケの油を洗い流していく。

 初めて訪れた三島。一駅となりは漁港で有名な沼津。伊豆箱根にも近く、周囲には観光資源が数多く密集する。

 街なかを縦横無尽に流れる小川。水質も良い。せせらぎが耳に心地よい。源兵衛川沿いにある休憩&観光案内処<一服処>でサービスしていただいた熱い緑茶。ホスピタリティあふれる、半日観光に最適なオトナの街である。

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まさに、水の都
posted by machi at 07:07| Comment(0) | 静岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする